NBAの中国問題:チャイナマネーの影響力

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NBAと中国に軋轢が走っています。

発端は、ロケッツのGMのダリル・モリーが、自由と民主主義のためにデモする香港を支持するツィートからで、それに納得のいかない中国はNBAに対し、NBAを中国から締め出すかのような動きを見せました。

その内容は次のようなものになります。

・中国のセレブや企業がNBAの上海でのイベントやプレシーズンゲームから引きげる。
・政府がNBAのイベントをキャンセル
・CCTVは中国でのNBAの2試合の放送をキャンセル(現在も放映せず)
・NBAのストリーミング契約をしているテンセントはロケッツの試合のストリーミングを中止
(現在は時間差でストリーミング。レイカーズ対クリッパーズの開幕戦は歴史的再生回数を記録)
・元ロケッツのヤオ・ミンがトップのCBAは今後のNBAとの提携を一時中断
・リーニンがNBAとのパートナーシップを一時解消
・中国のナイキストアのオンラインからロケッツの商品が消えた
・試合会場近くの巨大広告が撤去される
・試合3.5時間前まで試合ができるか中止になるのかわからない
・ダリル・モリーの解雇を要求

日本ではちょっと考えられない対応ですね。

焦ったNBA中国とロケッツのジェームズ・ハーデンが、この問題に対し謝罪しました。モリーのツィートは「不適切」だった、「謝罪する」等の言葉を使っていました。しかし、コミッショナーのアダム・シルヴァーは中国には「謝罪」はせずに、NBAはこれまでのように言論の自由を支持し、NBAは政治的な問題には口を出さないとの意向を示しました。

ちなみに、日本のニュースでは、モリーさんが謝罪に追い込まれたと出ましたが、モリーさんは実際には「謝罪」はひとつもしていません。

もともとアメリカの価値観で、「言論の自由」や「民主主義」はアイデンティティーに等しい大きな意味を持っているので、そのアメリカの根幹をなす価値観に他国から圧力をかけられたので、大きなニュースになりました。

アメリカ国内でもこの中国の圧力とそれに屈したNBAへの反発は強く、NBAは「言論の自由」を犠牲にしてまで中国とビジネスするべきではないとの声があがりました。これに関しては、分断が激しく対立ばかりしている民主党と共和党の意見が珍しく一致し、政治家からNBAは自由と民主主義よりも「金」をとったと批判されていました。

(テキサスの上院議員選挙で激しく争った民主党のベト・オルークと共和党のテッド・クルーズがめずらしく同じ意見だったのはアメリカ人でも面白かったようです)

このようにモリーのたったひとつのツィートが、政治までを巻き込む奇妙な大事件に発展してしまったのです。
 

NBAのポジション

NBAは選手たちに、自分たちにとって問題な事について自由に発言する事を許しています。選手たちは、人種差別やアスリートの地位の向上はもちろんのこと、銃規制問題から移民問題まで幅広く発言をしています。ツィッターでしばしばトランプ大統領が自分の政策を批判するような発言をするNBA選手やコーチをディスるのはそのためです。

しかし、この共感を生む行動こそがNBAがNFLと差別化できた大きな理由です。古い「昭和的な(前世紀的な」NFLに対し、NBAは選手たちのコアバリューを大切にし、彼らが問題にしている事に対し発言する事をサポートしてきました。それがファンたちの共感を得て、NBAのブランド力アップに貢献してきました。売上はNBAが2019年にNFLを抜いています。

また、NBAは人種だけではなく、ジェンダー(性別)の平等、LGBTQの権利などに積極的に取り組んでいます。女性の審判や球団で働く女性の割合を増やしたり、セクハラ問題も厳しく対応しています。2017年にシャーロットで開かれる予定だったオールスターを、シャーロットがトランスジェンダーの州施設でのトイレ使用禁止法案を通した事に抗議をして、会場をニューオリンズに変えてしまった程です。(2019年にシャーロットでのオールスターが実現しました)

今回の中国問題では、NBAの要であるコアバリューが試される形になっています。

中国の金をとるか、アメリカの価値をとるかです。
 

NBAにとっての中国とは

なぜ中国がNBAに強い影響力を持っているのでしょうか。

・NBAの昨年の中国での収益は約500億円
・NBAの現在の中国の収益はNBA全体の10%とも言われている(昨年の収益は約8000億円)
・NBAの2030年の中国の収益はNBA全体の20%に達する予想
・7月にテンセントがストリーミング権利を5年で1500億円で契約延長
・NBAチャイナは約4000億円ビジネスと言われている。各球団につき約133億円の計算
・2018-19のファイナルのゲーム6の視聴者は2100万人
・テンセントでは5億人のファンが試合を観ている
・3億人のバスケ人口

とてつもない人と金が絡んで来ていますね。

これにナイキやアディダスなどの周辺企業も関わってきますので、その規模は更に大きくなります。もしナイキやアディダスが、自分の親や友人を通して今すぐに謝罪しないと大変なことになる、と言ってきたら私もビビって謝罪しちゃうかもしれません。

KDのシグネチャーシューズは中国からの売上がアメリカ国内よりも多いそうです。

レブロンも自分の商品と来年公開される「スペース・ジャム2」があるので、
中国を敵にまわす訳にはいきません。
中国では、国がどの映画を映画館で公開するかを決めているからです。
もし映画の収益を考えれば、世界No.2の市場を自らの発言で潰すことはありえません。

今年のロケッツの中国からのスポンサー売上は約25億円と言われていますが、それもなくなりそうです。ひとつのツィートで約25億円がふっとんじゃうってすごい世界ですね。

ビリオネラーのNBAオーナーの中でも特に突出した金持ちではなく、自分の本に「Shut up and Listen(黙ってオレの話を聞け)」というタイトルをつけてしまう旧式でケチな経営スタイルを持つティルマン・フェルティッタにとって、このロスは許しがたい事なのではないでしょうか。個人的にはオーナーが金しか考えていないように見えるので、優秀なモリーさんは他チームに移って欲しいですが。

このように中国はNBAだけではなく、選手たちの金も握っているのです。

では、具体的にチャイナマネーがどのようにキャップに影響するのか見ていこうと思います。
 

NBAへの中国の影響

中国が影響するのは、ズバリ「キャップ」です。キャップは前年度の収益に比例して変動するので、中国からの売上がなくなったら、その分キャップも下がります。キャップに連動している選手たちのサラリーも減ります。

予想されている来年のキャップは約116億円ですが、今回の件でそれから10%~15%減るとの予想もあり、そうなると11.6~17.4億円減ってしまいます。低く見積もってもキャップは約104.4億になり、今年の約109億円のキャップよりも少なくなってしまいます。

そうなると、マックスも今年のマックスよりも減ってしまいます。例えば、リラードがスーパーマックスの約200億円の契約延長を結びましたが、この数字もキャップの予想数字をベースにしていますので、中国の売上がなくなれば必然的に彼のサラリーも下がります。

タックスぎりぎりでかわしているチームなんかは、タックス領域に入ってしまうかもしれません。
(例えばナゲッツやクリッパース)

これは球団運営にとっては重要で、トレードデットラインまでに来年のキャップがどうなるかわからないと、タックスを避けるためにトレードしてサラリーをカットするべきかどうか判断ができなくなってしまいます。

モリーのたったひとつのツィートで、中国でビジネスしていない関係ない選手のサラリーが影響してしまうのです。
では、具体的にどうなってしまうのでしょうか。最悪のケースを考えて

 

中国がいなくなった場合のキャップ考察

2020-21のキャップは約116億円。中国のNBA全体に対する収益率は10%。
そうなると、約11.6億円がもともとのキャップから引かれ、
約104.4億円になります。その結果…

10年選手のマックス5年は、約238億円→約213.5.3億円
6年目までの選手の移籍のマックスは、約125億円→約112億円
ミッドレベルの4年契約は、約40億円→約35.9億円

NBA関係者が揃って中国問題に触れない理由は、ここにあります。

このように仲間たちがどれだけ金を失うのかを見れば、
たとえ「人権問題」で「中国に屈服した」と言われても、
長期的には何も言わないのがベストな選択でしょう。
貧困の中で育った選手たちが多い中、どうして彼らが手にできるはずだった金を取り上げる事ができるでしょうか?もはや、この問題は自分の信念や信条だけの問題ではないのです。

選手たちみんな人権が大切だと言いたいはずです。あたりまえです。
そんな事は100も承知。
でも、仲間の生活を考えて、
中国の圧力に屈したと見られようが、
「人権」よりも「金をとった」と言われようが、
何も言わずにブラザーたちのために耐えるのです。

コーチたちも、選手たちから反発されたくないでしょうし、
オーナーからもビジネスに徹しろと指示が出ているはずです。
(スパーズだけは例外かもしれません)
モリーのように、たった1つの発言で、チームメイトやNBAの仲間(イコール、その家族)に迷惑(金)をかける事になってしまいます。

ですから、メディアから叩かれている選手たちやコーチたちを見ても
優しく見守ってあげてください。

参考サイト:As impasse over pro-Hong Kong tweet simmers, what’s at stake for the NBA in China?/All of the NBA’s official Chinese partners have suspended ties with the league

サムネイル画像:Photo by Getty