前回のCBA特集で、今シーズンのBRIが減ることを解説しました。
BRIが減る=選手のサラリーが減る、という事になります。
今回は、その「選手のサラリー」がどう引かれるのかについて見ていきます。 このコロナ中断でどうなってしまうのでしょうか。 ※選手のサラリーの直訳は「年棒」だと思いますが、年棒は 「上から支払われる」というニュアンスがあり、NBAのような成果をあげて勝ち取るイメージがあるスポーツには 相応しくないと考え、「サラリー」を使っています。
選手の給料はどう支払われるのか
選手のサラリーは一括でドンと支払われているわけではありません。
ほとんどの選手の1年間のサラリーは、1年かけて月2回のチェック(小切手)で支払われます。アメリカでは給料は、月2回(1日と15日)が普通なので、これは特段特別なものはありません。
ここで重要なポイントは、そのすべての支払いから10%が「エスクロー」として引かれている事です。

(ステフ・カリーのサラリー内訳)
エスクローは何かあった時の担保のようなもので、何かあった時のためにオーナーがきちんとBPIシェアリングの49%~50%を回収するために設けられています。何もなければ、エスクローはその年の最後に選手たちに戻されます。
例えば、今回の中断の場合、残り試合1/4を残してシーズンが終わりになる可能性もあります。もし中断になってしまった場合、選手の取り分であるBRIの50%~51%以上がすでに選手たちに支払われてしまっている状態になってしまっており、オーナーが払い損をしてしまっている事になります。
もしシーズンがキャンセルされた場合は、オーナーは足りない分(1/4の半分)を選手たちから取り返さないといけません。
また、シーズンが再開したとしても、無観客試合になった場合はBRIがありませんので、選手たちから払いすぎた差額を取り返さないといけません。
CBAでは「フォース・マジュール」条項があり(というかアメリカではどんな契約にも必ず入っている)、オーナーは、戦争や自然災害、パンデミックなど不可抗力な事が発生した事態では、毎試合1/92.6のサラリーの分を取り返せるようになっています。
コロナもこの条項に入ります。
また、リーグは、60日前に通達すればCBAを破棄できるようになっています。しかしこの可能性はありません。来シーズンもあるし、今シーズンもあるので、リーグも選手たちとはもめたくないでしょう。NBPAもそれは望んでいないと思います。
しかし、トリッキーなところは、「シーズンが正式に中断になっていない」ため、NBPAはまだフォース・マジュールに合意しなくてもいいところです。白か黒かで考えればいいのであれば、選手たちはまだ中断になっていなのにお金を諦める理由もありません。
まだ正式に中断になっていないとは言え、BRIが減る事は確実です。このCBAの内容を変えて合意するのは、NBAとNBPAの交渉次第になります。
では、オーナーが払いすぎていたものをどうやって選手たちから取り返せるのでしょうか?
NBA teams could be losing up to ~$5M/month (this is a pure guess). Even though the BRI split is predefined, teams need their full share of the money ASAP. There’s 3 ways to get it: (a) force majeure (fastest option), (b) agreement with NBPA, and/or (c) escrow (slowest option).
— Albert Nahmad (@AlbertNahmad) April 15, 2020
現状
NBAとNBPAの間で、5/15日以降のサラリーから25%が引かれる事で合意しました。これで約380億円が30チームに戻る事になります。
もしNBPAがこれに合意しなければ、足りない分は選手たちがシーズン終了時に返さなければいけなかったそうです。
例外があって、サラリーのすべてが払われてしまった選手たちもいます。
NBA全434の契約中、10%の選手が短期間(11/15~5/1)の間でチェックを受け取るようにしていまして、その中にレブロンも入っているようです。
The nine Klutch players are naturally led by LeBron James and include John Wall, Kentavious-Caldwell Pope, Dejounte Murray, Miles Bridges, Darius Bazley, Darius Garland, Terrance Ferguson and Trey Lyles. Next season it will be 10 when Draymond Green’s contract extension kicks in
— Marc Stein (@TheSteinLine) March 31, 2020
レブロンに関しては、来年のサラリーから払いすぎの分を差し引いて返してもらうか、単純にそのままお金を返して行くかのどちらかになるでしょう。
Klucthの9選手はこのような契約にしているそうです。
レブロン、ジョン・ウォール、KCP、デジョンテ・マレー、マイルス・ブリッジス、ダリアス・ベイズリー、ダリアス・ガーランド、テランス・ファーガソン、トレイ・ライルス。また、KDとカイリー、ブレイク、オットーも同じようなディールだそうです。

(Klutchのリッチ・ポールと所属選手たち)
特殊なのはマーク・ガソル。彼は来シーズンFAなので、来シーズンラプターズにいるかわからないので、ラプターズは今、差額分の1/4を取り返さなければいけません。彼がミニマムで契約したら取り返せないし、引退しても同じ事です。
これにより、マーク・ガソルは今シーズンの約25.5億円の1/4のサラリーを返さなくてはいけません。約6.3億円になりますね。これで彼のサラリーは約19.1億円になります。
選手たちのボーナス
選手たちにはある数字を達成するとボーナスが支払われる契約を結んでいる人たちがいます。
もしシーズンがキャンセルされてしまった場合、達成されるはずだった数字が達成されなくなってしまいます。これもNBAとNBPAの交渉にかかっています。
例えば、ペリカンズのジュルー・ホリデーは、66試合出場すれば約5100万円のボーナスがもらえる契約をしています。中断時点で64試合中55試合でているので、残り9試合足りていません。しかし、これは達成されていたと考えてもいいのではないでしょうか。
彼はまた67試合出場して1試合平均3.15リバウンドすれば約2550万円がもらえるボーナスがあります。今は1試合平均4.9リバウンドになっています。
このように常識的にみて達成されたと言ってもいい成績を残していれば、ボーナスはもらえるように配慮されると思います。
来シーズンへの影響
このように、オーナーも選手たちも金銭面を考えれば無観客試合は避けたいはずですが、それも現時点では現実的ではなさそうです。
大変なのは来シーズンです。
ファウチさんも冬にはコロナのセンカンド・サイクルが来ると言っているように、シーズンが通常通り観客を入れて開催されるとは限りません。今年はシーズンがほぼ終わった時点での無観客試合(中止)になりましたが、来シーズンはどうなってしまうのでしょうか。考えただけでも恐ろしいですね。
この点ではシーズンがこれからはじまるMLBや、9月開幕のNFLの様子を見て、それがどうNBAにも反映されるのか参考にできそうです。
参考サイト:NBA players to receive 25% less in paychecks starting May 15
サムネイル画像:Photo by AFP