レギュラーシーズン2年連続1位でもバックスはプレーオフで勝てていないですね。レギュラーシーズンでは圧倒的な強さを見せ、しかもMVPのヤニスを擁しているので、バックスがファイナルまで行くと思っていた人も多いのではないでしょうか。現地のレポーターも同じ予想でした。しかし結果はプレーオフの2ndラウンドで敗退です。
今回はなぜバックスがプレーオフでは勝てないのか、そしてオフシーズンはどうしたら良いのかを簡単に見ていきたいと思います。

(By MIKE ROEMER, AP)
まずブデンホルザーがヘッドコーチに就任し、ヤニスがMVPを獲得したこの2シーズンを振り返ってみると:
2017-18シーズン 44勝38敗 →プレーオフ DefRTG109.1 リーグ18位/NetRTG-0.2で リーグ20位
2018-19シーズン 60勝22敗 ヤニスMVP /DefRTG104.9 リーグ1位/NetRTG8.6で リーグ1位
新ヘッドコーチにマイク・ブデンホルザー就任 プレーオフ カンファレンス決勝敗退
2019-20シーズン 56勝17敗 ヤニスMVP(おそらく) /DefRTG102.5 リーグ1位/NetRTG9.4で リーグ1位
プレーオフ 2ndラウンド敗退
リーグ1位になってもプレーオフは勝てていません。それだけNBAのファイナルに行くのは大変なことなのでしょう。
でもバックスには相手チームが対応しやすいというわかりやすい理由があります。わかりやすいため、レギュラーシーズンでは通用していたバスケが同じチームと戦うプレーオフのバスケには通用しないということですね。
まずはプレーオフのバスケは何が違うのか、から見ていきたいと思います。
プレーオフ
NBAのプレーオフはベスト・オブ・セブンで、多ければ同じチームと7試合もします。
すべてのプレー、すべて選手の傾向、マッチアップ、すべての数字は分析されて尽くされ、そのスカウト資料は100ページ以上にもなるそうです。チームにより違いはあるそうですが、これがレギュラーシーズンだと選手につき紙1枚だけのスカウト資料になるところもあるそうなので、プレーオフになると情報量も格段にあがる上に、対策もしやすくなります。
またレギュラーシーズンでは試合数が多すぎて情報分析を実際に練習してカタチに落とし込む時間がありません。試合数が82試合と多く、毎週3つの時差を移動するので、選手たちの試合のためのベストのコンディションづくりが優先してしまいます。そのため、ロード負担になる練習はあまりしないそうです。
そうなるとディフェンスやオフェンスが変則的なチームは相手が対応しきれないため、レギュラーシーズンは勝ててしまえます。今のロケッツや以前のウォリアーズなんかがこれに当たります。
しかし、プレーオフになると話が違ってきます。データを分析し、1試合戦うごとに弱点をつきつかれ、まずかったところを修正して、試合結果の後ふたたび戦術を練り直します。しかも多ければスタイルの違う4チームとシリーズを戦うので、様々な問題にぶち当たる…
プレーオフでは、それらに対応できる戦術を運用でき、それをエクスキュートできる選手が揃っているできるチームが勝って行きます。わかりやすい例が昨シーズンの王者のラプターズで、ビックにもスモールにも変化でき、ディフェンスもスウィッチやゾーンなどいろいろ対応できます。48分の試合で5分でも10分でも優位に立てれば勝てる確率が大きくあがりますから、対応力は大切な要素です。
82試合戦うチームと、プレーオフで16勝できるチームは違うということでしょうか。
残念ながらバックスは今年も後者ではなかったという事です。
それをヒート戦を通して見ていきたいと思います。
ディフェンス
いちばんの大きな問題はバックスの守備スタイルは1つしかないこと。
バックスのディフェンスは、ペイントは堅く守り、ドロップカバレッジ&ガードでPnRを追い回し、ある程度スリーを捨てて、相手のミドルシュートの確率で勝つのが基本戦略ですが、スキームであるのはそれだけです。ゾーンもないし、スウィッチもしないので相手オフェンスのリズムも崩せません。
バックスのベースディフェンスです。
Milwaukee Bucks Drop Ballscreen Defense | Rear Contests pic.twitter.com/TrKKz7Vg8K
— Half Court Hoops (@HalfCourtHoops) August 12, 2020
それでも確率がいちばん悪いミディーを撃たせていけばレギュラーシーズンでは勝てる。
実際にバックスはレギュラーシーズンはDefRTGが102.5で1位でした。
(それがプレーオフでは107.3に落ちます。22チーム中6位)
確かに、「シリーズ中に対戦相手が4試合もスリーが当たりまくって負ける可能性は限りなく低い」という考えも理解できます。
でも、ヒートのようにボールハンドラーが多く、スクリーンやDHOからのスリーがあるチームは、バックスのペイントを固めた守備を崩せてしまうので対応を迫られます。でも1つの守備に特化したバックスは対応できませんでした。
本来、そんな時はぜんぶスウィッチしてしまえばいいのです。
せっかくトレードでマーヴィン・ウィリアムスを獲得したのですから、ヤニスを5にシフトして、ウィリアムス4、ミドルトン3、マシューズ2、ブレッドソー1にしてオールスイッチしてしまえば、ヒートのガードやスクリーンからのアクションはある程度止められたと思います。正直これだけリーチがある選手たちがそろってスウィッチしまくるのは驚異的ですらあります。
バックスはスウィッチもトライしていましたが、慣れていないので反応が一歩も半歩も遅れてしまいます。NBAの半歩は致命的な距離。特にブレッドソーが苦手そうでした。
レギュラーシーズンで勝ってしまっていたからなのか、ゾーンやスイッチなどを実戦で試してこなかったのが悔やまれますね。それもこれもコーチのブデンホルザーが運営するプログラムの欠点です。勝っている時になぜ少しでも手数を増やしておこうとしないのか… 柔軟性がないのは彼もホークス時代から言われいることで、もはや彼のスタイルなのでしょう。ひょっとしたらプレーオフもほぼ確定した3月と4月で試そうと思っていたのかもしれないので、あまりブデンホルザーさんの批判はできませんが…
2020 Milwaukee Bucks
* 53-10 start to regular season
* 8-10 record in the NBA Bubble pic.twitter.com/GntV569mcA— Ben Golliver (@BenGolliver) September 9, 2020
また、1stラウンドシリーズのマジック戦で、マジックのCのヴチェヴィッチに対して、いつもはドロップカバレッジのロペスやヤニスをいつもよりも高くあげて負けてしまった影響もあったのかもしれません。結局シリーズは自分たちのスタイルを貫いて勝ててしまったので、ヒート・シリーズも同じマインドセットで臨んだ影響もありそうです。アイデンティティーって結構プレーに影響しそうですし。
ラプターズやセルティクスがいろいろなゾーンの応酬をしているのを見るとかなり物足りないですね。
オフェンス
これはバックスの永遠のテーマですが、ヤニスが止められたらどうするか。
ヒートはヤニスにクラウダーをマッチアップさせていましたが、クラウダーがなかなか素晴らしい守備をしていました。(実はこれは選手たちが自分で選んで決めたことだそうです)
しかもバム・アデバヨというヤニスのスピードにもついていけるヤニス・キラーを温存。本来ならヤニスをTS36%までに抑えられるアデバヨがヤニスを守ってもいいはずでした。
バムのヤニスに対するディフェンス集です。
また他のチームと同じようにヤニスに壁をつくってリムへ突っ込まれないようにもしていました。ヤニスには外がないので、これで十分。スリーをいくつか決められても確率分布からかけ離れたデータなので気にする必要はありません。これでバックスは昨シーズン、ヤニスがカワイとラプターズの守備に止められた時と同じパターンになってしまいました。ヤニスが思うように得点できなければ、他の選手が点を取らなくてはいけません。
ミドルトンのミドルシュートだけではシリーズは勝てないでしょう。結局は1-on-1だからです。
(私は彼に謝らなくてはいけなくて、てっきり自分でオフェンスをつくれない選手だと思っていました。ドライブはなくてもドルブルからのプルアップが武器だということを知りませんでした。勘違いをしていてすいませんでした)
3番手のブレッドソーはどうでしょうか。フィニッシュはエリートレベルではないですし、1-on-1も厳しいのではないでしょうか。またショットセレクションの悪さには定評があります。
↓解説のレジー・ミラーもブレッドソーがスリーをうって思わず「WHY?」
Bledsoe high iq shot selection (with great commentary) pic.twitter.com/px7dJyjAKM
— Main Team (@MainTeamSports) September 7, 2020
ブレッドソーは実力で言えばリーグのPGランクでも真ん中くらいかもしれません。みなさんもファンタシーでは、彼をルビオの下くらいのランキングにしているのではないでしょうか。守備はすばらしいですが、ゲームメイクも強みではないですし。プレーオフ前にコロナに感染していたので調子も良くなかったのかもしれませんが…
話はそれますが、モダンNBAのガードは、ボールハンドリングできてリムでフィニッシュできるガードが必要だと言われています。シュートとパスがあるのは大前提。速さがあれば完璧。要はオフェンスを組み立てられて1-on-1もできる人ですよね。こんな選手がいたらバックスももっと楽にオフェンスができていたはずです。
あれ?ちょっと待ってください。これって…ブログドンのこと?
そうです!こんな時にブログドンがいたらと思わずにはいられません!
彼がいればこのシリーズではヤニスの次に頼りになっていたはず!!
Malcolm Brogdon's 26 PTS, 6 REB, 7 AST lift the @Pacers to their 4th straight win! #IndianaStyle pic.twitter.com/mO96oKiMHb
— NBA (@NBA) March 3, 2020
タックスを払いたくないバックスは、去年の夏にブログドンをペイサーズにトレードしてしまいました。
その前にブレッドソーと契約延長をしちゃってますので、ブレッドソーを選んだと言うことですね。
ブログドンのケガはドラフト前から懸念されていて、彼の状態はバックスのメディカルスタッフがいちばん良くわかっていると思うので、今のうちにブログドンは出してしまおうか、お金かかっちゃうし…というようなことでしょうか。でも、ペイサーズを見ていて、ケガは問題がなかった(中断があったからかもしれませんが)ように見えたので悔やまれます。
こっちはフロント(いや、タックスを払わなかったオーナー)の責任ですね。
話がズレでしまいましたが、オフェンスに戻します。ヤニスが止められるのなら、ヤニスをCにしてダンカースポットに置いて外から攻めるとか、ヤニスがいない時もブレッドソーとミドルトンの2マンゲームとか、最初からもうちょっと工夫があっても良かったなぁと思います。
ヤニスが右足首の捻挫でゲーム5を欠場しましたが、たとえ彼が万全でも”相性が悪すぎた+対策されやすい”ためヒートが勝っていたと思います。仮に勝ったとしても攻守に問題があるようでは優勝はできなかったでしょう。来シーズンに期待です。
そしてヒートの次の相手はセルティクスですが、ゾーンもスウィッチもやってきます。なんならスクラムも上手いです。ヒートはバックスよりも苦戦するのではないでしょうか。
バックスのこれから
2年連続MVP(たぶん)とDPOYのヤニスを中心に、柔軟性のあるチームづくりをしていかなければいけません。セミリセットとでも言うのでしょうか。
キャップの詳細は長くなってしまうので割愛しますが、バックスは来シーズン12人で約127億円なので、使うことができる大きな金額はMLEの約9億円です。そして、このままいけばタックス(今シーズンと同じキャップで計算)超えは必死。
プレーオフ敗退の後、ヤニスはバックスのオーナーと会って来シーズン以降のことを話し合ったそうですが、2021年にFAになるヤニスをハッピーにするために、金を使うのは仕方ありません。コロナで収益は厳しいと思いますが….
キャップがないので選択肢は限られますですが、ロビンとは契約せずにスウィッチしてPnRを守れる安い5を得る(激戦)とか、3&Dのウィング(激戦)も欲しいですね。ブレッドソーはトレードしやすい約16.8億円のサラリーですが、とってくれるところはないのではないでしょうか。そもそもPGが必要なチームは少なくて、ピストンズ、マジック、ニックスあたりしかない or キャップスペースがあって彼の約16.8億円のサラリーを引き取ってくれるチームがあるのか… ピストンズ?そうとうぼったくられそうですが(笑)。
でもブレッドソーのトレードでトレードエクセプションができれば、そっちの方がトレードアセットとして使いやすくなりますね。
あとはラプターズとかセルティクスのディフェンス担当コーチを札束で引き抜くとか(笑)。コーチにはキャップなどの縛りがないので、好きなだけお金使えます。
そして最後に個の成長。ヤニスのシュートとスリー、そしてブレッドソーのハンドリングやフィニッシュ。そしてブデンホルザーさんの柔軟な戦術思考。これさえあればさらに強くなれるはず。
オフシーズン、バックスがどうするのか注目です。
ヤニスとバックスのキャップも機会があったらとりあげてみたいと思います。
サムネイル画像:Photo by The Associated Press