ウルブスのヘッドコーチ解任の謎

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ウルブスのヘッドコーチのライアン・サンダースは、ミネソタ・ティンバーウルブスの貴公子とも言えるべき存在で、父は元ウルブスの黄金時代(?)を築いたフリップ・サンダース、母のデビーはウルブスの少数株主です。彼女の保有株式は1%にも満たないそうですが、NBA球団の株式はなかなか手に入るものではなく、れっきとしたオーナーグループの一員です。姉もウルブスのフロントオフィスで働いており、オーナーのグレン・テイラーとは家族ぐるみの付き合いです。

しかし、そんなティンバーウルブスの貴公子とも言えるべき存在のライアン・サンダースが、2/21にニューヨークでニックスに負けた後解雇されてしまいました。

(元ウルブスのヘッドコーチのライアン・サンダース)

 

ウルブスの成績は7勝23敗とリーグ最下位。チーム状態も、ケガやコロナ感染等本来のチームの姿とはかかけ離れた状態が続いており、特にフランチャイズ・プレーヤーのカール・アンソニー=タウンズ(以下KAT)とマックスプレーヤーのディアンジェロ・ラッセルのNo.1&2コンビがこの1年で一緒にプレーしたのはたったの5試合しかないような状況が続いています。このような外的要因はサンダースのせいではないですし、シュートもPFも足りないチーム構成も彼のせいではないので、解雇はフェアではないかもしれません。

しかし、それでもリーグ最下位の責任は誰かがとらなければならない時もあります。しかも、ウルブスはこの数年サラリーも相当使っています。こういう場合は、GMではなくヘッドコーチが先に首になるのが通例で、サンダースは今期解雇されるであろうヘッドコーチ候補の中に入っていました。

そのため、サンダースの解雇には驚きはなく、話題になったのはそのタイミングと新ヘッドコーチ採用のプロセスでした。いったい何が問題だったのでしょうか。

 

新ヘッドコーチの採用プロセスの問題点は3つあります。

まず1つ目は、なんと自分のチームのアシスタントコーチ―しかもアソシエイト・ヘッドコーチ―のデヴィット・ヴァンタープールをインテリムにするのではなく、別チーム(ラプターズ)のアシスタントコーチのクリス・フィンチを引っ張ってきてヘッドコーチに就任させた事です。通常はシーズン中にヘッドコーチが変わる場合は、アシスタントコーチをインテリムに引き上げます。特にヴァンタープールはただのアシスタントではなく、アソシエイト・ヘッドコーチです。そんなタイトルの人間がいるにも関わらず、他チームのアシスタントからヘッドコーチを雇いました。

最後にこれが起きたのは、2009年のグリズリーズ(リオネル・ホリンズ)以来のことだそうです。ちなみにこの時のホリンズはグリズリーズでアシスタントをしていたので出戻りになります。そのためチームもホリンズもお互いを理解していました。また、ヤフーのクリス・ヘインズによると、アソシエイト・ヘッドコーチがインテリムになれなかったのも初めてのことではないかとの事です。

そして、2つ目の問題は、ライアン・サンダースの解雇と新ヘッドコーチのクリス・フィンチの就任決定のタイミングです。ほぼ同時— Woj砲では11分の間隔 — に発表されたということは、サンダースの解雇の前にラプターズとは話をつけてあったということを意味します。これは非倫理的で「ヘッドコーチを解雇するまでは誰もインタビューしないし、声をかけない、そしてヘッドコーチ候補もまだヘッドコーチがいる間はインタビューも受けない」という聖域にも近い業界ルールを破ったことになります。

また、タイミングでいえば、サンダースが解雇になったニューヨークでのニックス戦は、4試合のロードトリップの初日でした。なぜ解雇をミネアポリスに戻ってくるまで待てなかったのかに疑問が残ります。フィンチは誰にも取られないでしょうし、何か焦る理由があったのでしょうか。

さいごに、インテリムになるはずだったヴァンタープールは黒人で、新ヘッドコーチのフィンチは白人だったことで、人種の壁の存在が特に黒人ジャーナリストの間で大きく取り上げられ、ESPNのマーク・スピアース、アミン・ハッサン、ヤフーのクリス・ヘインズにヴィンセント・グッドウィルは否定的でした。特にヤフーのヴィンセント・グッドウィルは「これがまかり通るのは問題だ。黒人はどうしたらヘッドコーチになれるのか?」とウルブスのプロセスに疑問を投げかけていました。(長くなるため今回はNBAのコーチ雇用プロセスの問題には触れません)

そこで疑問が湧いてきます。なぜ、ウルブスのプレジデントのガーソン・ロサスは、今シーズンはアシスタントをインテリムHCにして乗り切り、夏に新ヘッドコーチを雇うというような通常のプロセスを踏まなかったのでしょうか?

考えられる答えは「ロサスには私たちが考えている以上に時間がない」です。

Glen Taylor and at right is Ethan Casson, the team’s CEO

(オーナーのグレン・テイラー、ロサス、CEOのイーサン・カッソン Photo by Dane Mizutani/St. Paul Pioneer Press)

 

ロサスに残された時間

ウルブスのフランチャイズ・プレーヤーのKATは、2018年にウルブスと5年で約190億円のマックス契約を結びました。KATの契約は今年が終われば残り2年になり、もし球団の方向性にハッピーでなければ、ハーデンやADのようにトレードを要求するようになります。そうならないように、ロサスはKATにチームは2021-22シーズンに改善しているところを見せなければいけません。最低でもプレーオフは行かないと厳しいでしょう。

そして、ロサスはウルブスと2019年の5/1にに契約をしています。契約内容は明かされていないのでハッキリした年数はわかりませんが、NBAの常識に照らし合わせれば4~5年になっているはずです。彼がプレジデントになってもう2年近くが過ぎているので、残りは2年か3年です。それまでに結果を出さなければ、今度は彼が首になるでしょう。

そもそもロサスがプレジデントになってから、チームづくりはうまく行っていません。失敗していると言ってもいいのではないでしょうか。今シーズンは、7-24とリーグ最下位。オールスターだったディアンジェロ・ラッセルをトレードしてから1年経つのにKATとは5試合しかプレーしていないなど、ケガやコロナよる不運もありますが、それでもドラフトやトレード、それにサラリーキャップ管理では褒められた内容のことはしていません。

まず、ドラフトで選んだのは、2019年の全体6位指名のジャレット・カルヴァー。彼はこの2年でPERは9.6~10.6でBPMは-4.0~-5.8と平均値を下回り、成長する兆しが見えません。彼より後に指名されて活躍している選手には、7位のコビー・ホワイト、9位の八村塁、12位のPJ・ワシントン、13位のタイラー・ヒィーロがいるのでなおさら悪いように感じてしまいます。

同じように、2020年で1位指名のアンソニー・エドワーズよりも、3位指名のラメロ・ボールの方がだいぶ活躍しています。(ラメロのブレークダウンはこちら)

また、トレード市場での最大の獲得のディアンジェロ・ラッセルも期待されるような活躍ができていません。ラッセルは今シーズン、20試合に出場し、PERが16.3でBPMが0.4とマックス選手とは言い難い数字しか残せていません。バスケットにドライブしないのも気になるところで、リムまわりのシュートはたった10%。ライアン・サンダースのスリーを重きにおいたコンセプトなのかもしれませんが、ネット・レイティングも問題です。彼がプレーしている時は100ポゼッションでマイナス14.1点で、チーム内で最低。これが彼が座るとトントンに戻ります。彼の今シーズンのサラリーは約28.6億円です。

更に、彼を獲得するために、豊作と言われている今年のドラフトの指名権をたったの3位プロテクションでウォリアーズにトレードに出してしまっています。来年はプロテクションなしなので、指名権に対してはかなりゆるいアプローチです。KATとラッセルがいれば再建ではなくプレーオフ争いができると自信があったのかもしれません。

そして、昨シーズンのトレードでは、ジェイク・レイマン、マリック・ビーズリー、ホアンチョ・ヘルナンゴメスらを得ましたが、成績は19勝45敗でリーグ28位でした。

しかし、そんなチームであるにも関わらず、なんとウルブスはタックスチームになってしまっています。これにはオーナーのグレン・テイラーもハッピーではないでしょう。

そして今シーズンも現在7-26とリーグ最下位で、サラリーはタックスまで約3億円の約129.6億円になっています。

来シーズンのサラリーも現時点で約131.2億円で、もしドラフトでトップ3に入り指名選手をキープするのであれば、またタックスチームになります。タックスをかわすためにはルビオをトレードしなければなりません(切れる契約とてっとり早い金額)。スモールマーケットでこれだけの金額を使ってしまっているので、テイラーもせめてプレーオフには行って欲しいのではないでしょうか。

このように、ロサスは就任してから、成績、ドラフト、トレード、チーム構成、サラリーキャップとすべての面で成功できていません。崖っぷちにいるロサスは、なんとか状況をひっくり返そうとして、今回のような強引な手段に出たものと思われます。

また、ESPNのウィンドーストは、テイラーは球団の買い手を探していて、もし買収されたらプレジデントのロサスもどうなるかわからないので焦っているのではないかと推測していました。いずれにしても、ロサスには時間が残されていないということですね。

 

なぜロサスはわざわざラプターズからクリス・フィンチを引き抜いたのか?

(左:デヴィット・ヴァンタープール 右:ライアン・サンダース Photo by David Zalubowski/AP)

 

ロサスはフィンチ抜擢の理由として、「シーズン中の動きは大胆で直接的なものにするべきだ」と言ってはいますが、要は最初からフィンチをヘッドコーチにしたかったのだと思われます。

ロサスとフィンチはロケッツ時代がかぶっていて、その時からの友人です。ロサスはロケッツでアシスタントGMをしている時に、ロケッツのGリーグチームのリオグランデバレー・ヴァイパースのGMも兼任していました。その時のヴァイパースのヘッドコーチがクリス・フィンチで、2人はGリーグ制覇をしています。

ロサスがウルブスのプレジデントに就任した時は、政治的な理由でライアン・サンダースのヘッドコーチは決まっていたようです。それでもロサスはヘッドコーチ探しのインタビューを行い、クリス・フィンチもそのインタビューに呼んでいました。そのインタビューを受けて、ロサスはクリス・フィンチをサンダースのアシスタントにしようとします。しかし、当時ペリカンズのアシスタントコーチのフィンチの引き抜きにペリカンズがストップをかけます。その頃からロサスは、「サンダース→フィンチ」の絵を描いていたのではないかと思われます。

結局、ロサスはフィンチの代わりに、インタビューに呼んでいた当時ブレイザースのアシスタントコーチだったヴァンタープールをアソシエイト・ヘッドコーチとして雇いました。その時、ロサスはヴァンタープールを説得し、年棒約8000万円で引き抜いたそうです。ヴァンタープールもブレイザースでNo.2にはあがれなかったようで、No.2になれるウルブスの仕事を選んだそうです。

しかし、ロサスはまだフィンチをあきらめていませんでした。去年のオフシーズンに、フィンチがペリカンズを首になった時(ヘッドコーチのジェントリーが首になったので、アシスタントのフィンチも首になった)、ロサスはフィンチをアシスタント・ヘッドコーチとして雇おうとします。ですが、そのためにはコーチングスタッフの誰かを解雇してフィンチの枠を空けなければいけませんでした。それにサンダースが反対。結局、フィンチはラプターズでヘッドコーチをしている旧知のナースのアシスタントコーチになりました。

このロサスとフィンチの関係性からもわかるように、切羽つまっているロサスは、ヴァンタープールではなく、ずっと前から狙っていて、ともに優勝を経験したこともあるフィンチをヘッドコーチにしようと思ったようです。どうせ首になるのであれば、自分の信じたものに賭けて勝負にでたかったのではないでしょうか。ないといけない程低迷していると

また、ロサスはヴァンタープールのウルブスでの仕事ぶりを見て、彼を選ばなかったとの意見もあります。

またあるAthleticのレポーターは、元ロケッツでいまキングスのGMをしているモンテ・マクネイアーが、この夏にクリス・フィンチを狙うかもしれなかったので、ロサスが焦ったのではないかとも推測していました。

 

最後の疑問:なぜロサスはすぐにフィンチのヘッドコーチの就任を発表してしまったのか?

上記した通り、フロントもヘッドコーチがいる間は、インタビューもしませんし、コーチもまだそのチームにヘッドコーチがいたらインタビューは受けません。これは不文律になっており、これを破るとNBAには長くいれなくなってしまいます(サンズのリンジー・ハンター)。それをやったプレジデントがいるフロントも信頼されないでしょうし、それをしたコーチもリスペクトがなくなります。

それについてロサスは、サンダースを首にするのはニックス戦の日までわからず、その夕方までラプターズからフィンチと話す許可はもらっていなかったと言っていますが、そんなはずはありません。

なぜならニック・ナースは2/21のシクサーズ戦がクリス・フィンチのラプターズの最後の試合になる知っていて、しかもこのディールが「リークされなかったことの方が驚きだ」と言っています。

ナースによると、フィンチがウルブスのHCになるプロセスには36時間かかったそうです。その36時間前と言うと…なんとそれは2/19日で、ミネアポリスでウルブス対ラプターズの試合がありました。そして、そこでロサスとフィンチが話をしているのが目撃されています。

ナースのいう通りなら、その試合でロサスがフィンチの意向を確認し、翌日の朝にロサスはラプターズに許可を申し込んだことになります。そうすればこのタイミングの辻褄がすべてピッタリとハマります。

クリス・フィンチも年齢がすでに51歳で若いとは言えません。このロサスのオファーが最初で最後になるかもしれません。NBAのアシスタントコーチは全部188人いますし、元ヘッドコーチや大学のコーチを含めるとライバルはもっと増えます。フィンチ的には倫理に反してでも、これに飛びつくしかなかったのではないでしょうか。

 

もっとも重要なことですが、ウルブスでクリス・フィンチは成功するか?

ウルブスは、オフェンシブ・レイティングが105.7でリーグ28位。ディフェンシブ・レーティングが112.4でリーグ23位。ネットレイティングは-6.7でリーグ29位になっています。2Pt FG%は49.9%とリーグ29位で、TS%もリーグ29位でEFG%もリーグ28位とわかるようにシュートがありません。また、ポジション的にもPFがいない。

特に困った問題はディアンジェロ・ラッセルの守備です。フィンチはどうやってラッセルに守備をやらせるのでしょうか。それとも守備ができるウィングを獲得するのでしょうか。

サラリーも上で説明したようにかつかつなので、タックスを躱すためにルビオはトレードされるでしょう。そうなるとバックアップPGが必要になります。来年のドラフト指名権をキープできて、トップ・プロスペクトのPGのケイド・カニンハムやジェイレン・サグを取れれば話は別ですが… でもウィングも足りていないので、ジョナサン・カミンガも捨てがたいですね… いずれにしても安い2way契約のジョーダン・マクラフリンはキープでしょう。彼の開発も期待されます。

また、フィンチは新しいシステムを攻守において採用すると言っていますが、今シーズンは67日で34試合くらいあるほどタイトで練習時間が思うようにとれないので、実戦を使って練習していくしかありません。今シーズンはできる限りタンクして今年のドラフト死守(4位から後になるとウォリアーズに行ってしまう)できるので丁度良いのかもしれませんね。

ちなみに、去年リーグ最下位だったキャブスはドラフト指名順位はトップ3にも入らずに5位でした。60%の確率でトップ3から外れてしまうので、タンクは意味がないかもしれませんが、少しでもトップ3入りの確率はあげておきたいところでしょう。

 

しかも、フィンチはそれをサンダースが残していったコーチング・スタッフとやらなければいけません。がんばっていただきたい…

(クリス・フィンチ Photo by Morry Gash/AP)

 

ですが、明るい話もあります。

実は、Gリーグで優勝したり、またGリーグで勝ってきているNBAコーチの実績は高いです。

ジャズのクウィン・スナイダー
ラプターズのニック・ナース
グリズリーズのタイラー・ジェンキンス
元グリズリーズ/元キングスのデイヴ・イェガー(現シクサーズのアシスタント)
サンダーのマイク・ディガノー
ペイサーズのネイト・ビョークレン

そして、フィンチの戦術家としての評判も高いです。まだ選手たちとの関係性(特にKATとラッセルとの関係)をどうつくるのかは未知数ですが、バスケットボールIQも高いらしいので、これからのウルブスバスケが楽しみです。

また、フィンチは、ナゲッツでニコラ・ヨキッチ、ペリカンズでアンソニー・デイヴィスと今リーグで大活躍しているトップ級のビックと一緒でした。きっとフィンチはビックの使い方を深く理解しているにちがいありません。今後、KATの更なる成長が期待できます。

(Photo by Chuck Cook/USA TODAY Sports)


参考サイト:Chris Finch and The Timberwolves’ front-office reality
サムネイル画像:Photo by Minnesota Timberwolves