The Athleticのセス・パートナウさんが、3/13~3/31までの八村塁の活躍をアナリティクスで分析したのが興味深かったので紹介します。
パートナウさんはミルウォーキー・バックスでディレクター・オブ・バスケットボール・リサーチを務めたこともあるアナリストで、データサイエンスとスタティスティクスを駆使した視点からバスケを分析するアナリストです。
八村選手は3月後半の10試合(*米時間の3/13~3/31まで)で平均20.2点と7.8リバウンドをしていて、キャリアタイの30点を取りました。この活躍は、ブラック・サムライが長期的に成長する兆しなのか?覚醒したのか?それともただの蜃気楼のようなものなのか?セス・パートナウさんが分析しました。
まずパートナウさんは八村選手についてこのように言っています。
パートナウ:「八村は、効率が良いオフェンスができていない」
なぜなのか?
パートナウ:「それは、八村選手のゲームは、ミッドレンジが多く、フリースローラインには行かず、リムでのフィニッシュも特にうまくはないからだ。そして、オフェンスが非効率の上に、他に貢献する部分が多いわけでもなく、4としては平均以下のリバウンド、プレーメイクも少なく、ディフェンシブ・インパクトが多くない、PER(11.9)やVORPS(-0.4)も良いとは言えないとのこと。
しかし、成長した部分もあります。
「効率的になった箇所も少しある。リムまわりでちょっとフィニッシュがよくなり、ちょっと多くファウルを取るようになった。スリーはまだ平均以下の33.7%だが、去年からはかなり良くなっている。トルー・シューティング%はリーグ平均よりもちょっと下だが、去年はもっと下だった」
The Athleticのウィザースのビートライターのフレッド・カッツさんが八村選手が活躍した10試合を見たところ、彼はフリースローも多かったわけではなく、ディープもフープも増えた訳ではないが、ジャンパーを多く決め、そして彼の振る舞いが変わったと言っています。
カッツ:「彼がさいしょリーグに来た時は、スペースを適切に広げるのに苦労していた。もしウィングにいれば、彼はずっとそこにいる。ボールが来てもそこに立っていて、次にどうするか決める。よくドリブルを1~2回して12~18フット・ジャンパーを撃つ。それが今は動きに意思が見えるようになった。いつダンカースポットにいればいいか試合を読んでいる」
また、カッツさんによると、八村選手とウェストブルックの間には何か良いケミストリーがあり、ウェストブルックは、プレー中に彼を探しているそうです。その10試合で八村選手が決めた得点の45%はウェストブルックのアシストから来ているとのこと。それは1試合につき平均4アシストの計算です。
また、リムまわりでのプレーも変わり、八村選手はいつもよりもペイントでコンタクトを厭わずに戦おうとしていました。
カッツ:「リムまわりでは強くフィニッシュし、アイテストも合格し、オフ・ザ・ボールでもスペースを見つけようとクレバーになっていた」
そんな八村選手のペイント内でのプレーをパートナウさんが分析しました。
ペイント分析
パートナウ;「八村はペイント内でのオフェンスは、去シーズンは最低250アテンプトしている164選手の中で97位だった。ファウルドローはだいたい平均値で、フリースローラインへ行くのはアテンプトの16.8%だった」
SEASON | ペイント FG% | ペイント・ファウルドロー% | ペイント「成功」% |
---|---|---|---|
2019-20 | 54.0% | 16.8% | 63.2% |
2020-21 | 58.7% | 18.4% | 68.6% |
NBA平均 | 55.8% | 17.1% | 61.5% |
*「成功」はアテンプトを決めたかファウルをもらうかのどちらか
しかし、奇妙なことに、八村選手が活躍したその10試合では、ペイント内の数字は53.2%でファウルドローは6.6%になり、彼のこの2年平均よりも少なくなってしまっています。
パートナウさん的には、八村選手のペイント内のオフェンスは、全体的には進歩はみえるけれど、その10試合では彼に改善してほしいと思っているところができている訳ではないとの事。
その10試合でなぜ八村選手のリムまわりの数字が低くなっているのかについてカッツさんは、ビールやバータンスがいないため、八村選手は(どこだろうと)ショットが撃てれば撃つつもりになっているからだと言っていました。
また、カッツさんは、八村選手はペイントでも今までより争ってフィニッシュするようになっているそうです。
カッツ:「ヘッドコーチのブルックスはよく彼に、引いたりレイアップをフックしないで、もっと相手の胸に当たれと言っていた。今彼はもっと激しくフィニッシュする。前よりもアグレッシブになった」
ダンク分析:
パートナウ:「八村選手は、去年ダンクを45回していたが、今年はすでに41回している。去年はペイントからの17.5%がダンクだったが、今年は20.8%にあがっている。すごい増加だ」
ルーキーではペイントで15.5%ブロックされていましたが、それも14.5%にさがっています。リーグ平均は10%なのですが…
八村選手はダンクとブロックされる率がほぼ同じですが、アーロン・ゴードンは2:1だそうです。八村選手のような率ではザイオンがいて、彼は1:1だそうです。もちろんザイオンのアテンプト%とフィニッシュ能力、ファウルドローは八村選手よりもはるかに高いですが、「それはフェアな比較ではない」との事です。
スリーポイント分析:
カッツさんがリーグ中で聞くところによると、多くの人が八村選手の長期的な成長で最も重要なのはスリーポイントまわりだと言うそうです。もし八村選手がスリーを継続的に決めることができればゲームを変えられるとの事。
他に改善するべきところは、ハンドルだそうです。「もし彼がハンドルをタイトにすれば、オフェンスで効果的になれる。彼はパッサーとディシジョン・メイカーになる必要がある。ディフェンスでも多くのことが言える。今年はドリブラーにちょっと激しく守備している。彼のオフボールの守備はmess(ひどい)だ」
スリーに話を戻しましょう。
八村選手は今年は去年よりも多くスリーを撃っていて、その率はあがってきています。彼はシュートにアークをかけるようにして、リリースもスムースになっています。
八村選手が得意なのはミッドレンジですが、八村選手が成功するためにはどれくらいスリーを撃つのが理想的なのでしょうか?
パートナウ:「今の彼のユーセージにおいて、理想的なミッドレンジはゼロだ。何百回も言うが、ミッドレンジ・ジャンパーは今日のNBAでは「スター」・ショットだ。八村はそのスターのステータスを勝ち取っていない。もっと主要なオフェンシブ・プレーヤーになったとしても、リム・アテンプト、フリースロー、キャッチ&シュート・スリーのアテンプト数を増やして、しかもそれらを高い確率で決めなくてはいけない。むずかしいプルアップ・ジャンパーを武器に加える前にだ」
*KDのポッドキャストのホストのエディー・ゴンザレスさんは、八村選手の理想的なミッドレンジが0だというのは数字だけしかみていない例としてあげていました。
「何本撃てばいいのか?今のところ、100ポゼッションでスリーが3.9本なのは、244人の選手の中で193位だ。適正なのは100ポゼッションで6本あたりにすることだと思う。それはマイルス・ブリッジスやポール・ミルサップの領域になる。まずはそれからだ」
「悪いニュースだが、私は彼のスリーが改善されていると信じていない。去年八村は、アンコンテステッド・スリーが28.8%でとても悪かった。今年はそれが30.9%になった。リーグ平均は38%代になる傾向があるが、それが今年は39.2%だ。八村の改善は23本中10本のコテステッド・スリーを決めている結果によるもので、今の数字を維持できるとは思わない」
カッツ:「長い間、八村はスリーは彼のスタイルの1部ではないと抵抗してきた。彼をそのロジックから離れさすのもブルックスの仕事の一部だ。スリーを決めるのはファンダメンタルであると同時に習慣でもある。少なくても八村はその習慣を見直しはじめた。(彼のスリーは)はじまったばかりだ」
10試合のデータ比較
この10試合で八村選手のアテンプトは全体的に増えています。攻撃的にオフェンスをしている現れではないでしょうか。ユーセージもシーズン平均の18.2%から20.3%に増えて、TS%は55.4%から59%に、eFG%は51.3%から56.8%にあがっています。
リストリクテッド・エリア | ペイント | ミッドレンジ | 左コーナー3 | 右コーナー3 | トップオブザキー3 | FTアテンプト | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
シーズン平均 | 2.1/3.1> 66.7% | 1.4/3.0> 48.4% | 1.0/2.6> 38.3% | 0.1/0.3> 28.6% | 0.1/0.5v 26.3% | 0.6/1.8> 35.6% | 3.2 |
10試合 | 3.0/4.2> 78.9% | 2.5/4.5> 55.6% | 1.7/4.6> 37.0% | 0/0.3> 0% | 0.2/0.7> 28.6% | 1.1/2.2> 50.0% | 2.3 |
ショットチャートを見ても全体的にアテンプトが増えています。特に得意のミッドレンジが増えています。また、リストリクテッド・エリア内のフィニッシュもあがっています。そのためかFTアテンプトも減っていますね。
プルアップFGA | キャッチ&シュート2 Points FGA | ドライブ回数 | ドライブFGA | ポストアップ回数 | ポストアップFGA | ペイントタッチ | ペイントタッチFGA | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
シーズン平均 | 2.9 | 3.2 | 3.9 | 2.4 | 2.6 | 0.9 | 3.8 | 2.8 |
10試合 | 2.2 | 4.4 | 6.7 | 4.3 | 3.4 | 1.0 | 4.0 | 3.4 |
このように、その10試合ではドライブがかなり増えていて、バスケットに向かうことがかなり多くなっています。また、ポストアップやペイント内でのアテンプトも増えていて、八村選手のオフェンスへの意識が高まっていたと見ることができます。
相手の守備にも助けられていますが、このダンクのように相手に向かって行くような攻めのバスケットを続けていけば平均20点以上は残せていけるのではないでしょうか。
また、パートナウさんが言うように、確かにミッドレンジは非効率なオフェンス(CP3やデローザンの域になると違いますが)ではあると思いますが、現時点で八村選手は、外でボールをもらってドリブルからのプルアップや、スウィッチしてブロックでポストアップしたり、ネイルなどでボールをもらってからのシュートなどのミッドレンジをうまく使っていると思います。
とはいえ、ボールハンドラーのビールやウェストブルックのスペースを空けることも非ボールハンドラーではないウィングの重要な役割です。そういった意味ではスリーをもっと決められるようになるといいですね。逆に、スリーをどんどん撃っていければ(平均レベルで決められるようになれば)、それだけ得意のミッドレンジも更に活きてくるようになり、オフェンスの幅も広がります。チームももっと機能するでしょう。
これから先は完全に私個人の意見になってしまいますが、その10試合の数字を見れば、八村選手にはそのポテンシャルがあると思います。パートナウさんの言うような3つのポイント(リム、フリースロー、スリー)を磨きながら更なる高みへと進み、オールスターやオールNBAという栄光を手にして欲しいです。これからもブラック・サムライがNBAで活躍する姿を応援しています。