ネイト・ビョークレンの何が問題なのか

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シーズンも残すところ後2週間ほどになり、ペイサーズからヘッドコーチのネイト・ビョークレンの問題が一気にリークされ、大手メディアであるESPNのWojThe Athleticのサム・エイミックBleacher Reportのジェイク・フィッシャーがビョークレンの問題に関する記事を一斉に書きました。これだけ一度に別メディアに取り上げられることはトレード以外にあまりないため、現地でも大きな反響を呼んだようです。

何が問題だったのかと言うと、オフシーズンに就任したばかりの1年目のヘッドコーチのネイト・ビョークレンのコミュニケーションの取り方です。彼は、選手たちや自分のコーチング・スタッフたちとうまくコミュニケーションが取れていないそうです。

ネイト・ビョークレン (Photo by Matt Krgyer)

 

具体的にどのような問題だったかを紹介する前に、まず、どうしてそんな基本的なことができないネイト・ビョークレンがペイサーズのヘッドコーチになったのか、その経緯から話を始めさせてください。

ペイサーズはバブルのプレーオフの1stラウンドでヒートにストレート負けを喫してから、それまでペイサーズを率いてきたネイト・マクミラン(現ホークスのインテリムコーチ)を首にします。マクミランはチームをプレーオフに導いてきましたが、古いタイプのコーチで、若い選手が多いペイサーズには、彼のような古いハードなスタイルが合いませんでした。また、マクミランが指揮するチームのペースが遅く、スリーも撃たず(リーグ最下位)古いスタイルのバスケから抜け出せずにいて、モダンバスケへの転換が求められていました。

そうした問題を改善すれば、プレーオフももっと勝ち進めると考えたのではないでしょうか。

そこでペイサーズのプレジデントのケヴィン・プリチャードは、20人以上の候補にインタビューして、次のヘッドコーチを探しました。最有力候補と言われていた元ロケッツのマイク・ダントニ、スパーズのアシスタントのベッキー・ハモンや、デイヴ・イェガー(元キングスヘッドコーチで現シクサーズアシスタント)らともインタビューをしますが、その中からプリチャードが選んだのがヘッドコーチ未経験のネイト・ビョークレンでした。

おそらくパンデミックの影響もあり、サラリーが安い経験のないコーチにしたと思われます。フロントオフィスのサラリーにはキャップがないので、いくらでも金を使ってアドバンテージを生み出せますが、それとは逆に金を使わないで済ます球団もあります。

特に、ペイサーズのオーナーのハーブ・サイモンのメインビジネスは不動産(モールなど)で、コロナの影響をモロに受けており、あまり高いダントニ(約7億円は要求されそう)ではなく、数億円で済ませられる若手を選んだのだと思います。それは後から述べるビョークレンの契約期間にも現れています。

その時の最終候補は、ラプターズでナースの右腕だったビョークレンと、当時ペリカンズのアシスタントだったクリス・フィンチ(現ウルブスヘッドコーチ)でした。フィンチはイギリスでナースと戦ったこともあり、ナースの前にリオ・グランデバリーのGリーグコーチを務め、ラプターズでナースのアシスタントにもなっていました。

ニック・ナースとネイト・ビョークレン(Photo by Rick Madonik/Toronto Star)

 

プリチャードは、ラプターズのニック・ナースの大ファンで、ナースのアナリティクスのオフェンスの洞察力や既存の枠にとらわれない様々なゾーンなどのディフェンス戦術に感銘を受けていて、ナースの系譜を継ぐこの若く安いふたりに絞られたのだと考えられています。

また、GMのブキャナンは、ビョークレンとは大学時代からの友人で、ここの人間関係もビョークレン採用に大きく影響しているようです。

プレジデントのケヴィン・プリチャード

 

ネイト・ビョークレンの問題

彼についてレポートされている問題や彼の態度への声をまとめました。正直、私も読んでいて引いたものもあります。

Gリーグでヘッドコーチをしていた時は、練習のスケジュールが遅れたり、ボールラックが指定な場所になかったりした時は、何の前触れもなく選手やスタッフたちに爆発した。小さな問題に見合わないほどの大きなフラストレーションを感じるタイプ。

Gリーグで彼の元でプレーしていた選手も、彼はむずかしい人間だから、ヘッドコーチになると聞いて驚いたと言っていました。頭が固く、人の話を聞かずに、マイクロマネージャーで、彼と合う人間を見つけるのはむずかしいとも。

コーチたちや選手たちにオーナーシップを与えず、自分から信頼を得ようとしないにも関わらず要求だけは高い。

サンズやラプターズでアシスタントコーチをしていた時、政治的な動きを取り、情報を操作。特にラプターズ時代には、選手やコーチたちはビョークレンを通さなければナースと会話ができないようにしていたそうです。

アシスタントやスタッフに怒鳴る。あるペイサーズのスタッフは、彼を「ジキルとハイド」のようだと言っています。

個別でやっているシュートアラウンドやワームアップでも、アシスタントコーチに何をしているのか聞きに行く。このあたりは前述したオーナシップや聞き方の問題だと思われます。

あるペイサーズのアシスタントの中には、ビョークレンのマイクロマネージメントとパワハラ的なやり方が嫌で辞めた人もいると言われている。

あるソース:「彼は悪い奴ではないが、リーダーの資質はない」

あるソース:「初日から関係性を築くのがむずかしかった」

 

このように、ビョークレンのコミュニケーション・スタイルは攻撃的で不快なものだったり敵対的だそうで、彼への不満はベンチに入るアシスタントから末端の備品管理の人たちまで、あらゆるところからあがっているようです。

また、スタッフたちからだけではなく、選手たちのロスターの上から下まで彼への不満を口にしていて、それには中心選手のサボニスとブログドンも含まれているそうです。サボニスに関しては、彼に他のコーチたちにもっと優しくするように言ったりしているようです。

選手たちの中には、彼のスタイルだけではなく、起用方法にも疑問を持っている人たちもいるです。オールスターのサボニスは、守備でペリメーターまで出て行ってスウィッチすることが多いことに不満を持っているようです。サボニスはディフェンスでNBAの中で最も長い距離を動いている選手です。

それこそ、シーズン開幕から勝っている頃は、サボニスもボログドンもビョークレンを褒め称えていましたが、もう選手たちはそのようなことは言っていないそうです。あるペイサーズのあるソースによると、「それが何故かは自分で考えてくれ」だそうです。

地元紙のインディー・スターのJ・マイケルさん

「ビョークレンに懸念がある。コーチとしてではなく、人間としてだ。私はそう聞いた。これは圧力鍋で彼はそのすべてを感じている。みんなにとって居心地が悪いものになってきている」

 

普通は若いコーチはポジティブで、前向きなアプローチをしているそうなんですが、ちょっとこれだけ見ても残念です。私にとっても働きたくない上司のタイプに入ります(苦笑)。もしくはアスペ的なところもあるのかもしれません(私の推測です)。

そもそも、なぜペイサーズはこのように他球団やGリーグで問題になっていた彼の素行を見逃したのでしょうか?

まず、彼はインタビューではとてもポジティブだったそうです。普通若いコーチはとても前向きでエネルギッシュなので、そう映ったのかもしれません。また、彼には良い評判もあり、Gリーグではチームの成績と選手のパフォーマンスをあげることで有名だったそうです。そのため、プリチャードには、ペイサーズをイーストの4位から優勝候補に押し上げてくれるという思いがあったようです。また、インタビューではバスケの話しかしなかったとも言われています。

そして、ペイサーズはビョークレンが人をどう接するのかのバックグラウンドチェックをしませんでした。ビョークレンが2015~17年にアシスタントをしていたサンズには連絡をせず、その時にサンズにいたTJ・ウォーレンにも何も聞かなかったそうです。

ペイサーズの中には、ビョークレンがヘッドコーチになると知ったウォーレンがトレードを要求したと信じている人たちもいるとジェイク・フィッシャーにレポートされていました。後にウォーレンもペイサーズもこれを否定しています。

おそらくバックグラウンドチェックを怠ったというよりも、バックグランドチェックをしなかったのは、プリチャードが仲の良いナースにビョークレンについてよく相談をしていたため、彼の素行がこれほど大きな問題になるとは思っていなかったからだと思われます。

これからペイサーズはどうなるのでしょうか。

2013年のホーネッツが、選手たちに広がる不満のためにヘッドコーチのマイク・ダンラップを1年で首にした時と同じような終わり方をすると見ている人もいます。

ヘッドコーチのサラリーは通常は3+1が慣習で、1年目で首になろうが、保証されている3年はサラリーを払い続けなければいけません(他チームのヘッドコーチになったらその分チャラになる)。そのため1年目で首になるヘッドコーチはあまりいません。

しかし、ビョークレンの契約は2+1だそうです。保証されているのはあと1年のみです。しかもサラリーをストレッチすることが可能なので、解雇もしやすくなります。

話はそれますが、これと逆なのが、キングスと契約があと2年残っているルーク・ウォルトンです。キングスが彼を首にしても、彼のサラリーはストレッチできない(きちんと支払期限が取り決められている)契約内容になっているため、コロナで財政に大きな影響を受けているキングスにとって首にしずらいそうです。

また、この問題の出方にも、ペイサーズの解雇の意図が感じられます。

まずシーズンが終わる前でのリークのタイミングがあまりにも恣意的に感じられます。問題が続いてきて、なぜ今このタイミングなのか?

フロントも雇ってたった1年で首にするからには、ある程度の「ネガティブな」ストーリーが必要でしょう。特にプリチャードは、そんな問題のある人物をヘッドコーチにしてしまった責任が問われてしまいます。しかし、メディアでこれだけ人間的に問題があると取り上げられれば、話をバックグラウンドチェックを怠ったプリチャードの責任ではなく、ビョークレンの人間性に問題があったと塗り替えられます。また、もしこれでビョークレンが変わってくれて、チーム内がまとまってきてプレーオフへ行ければ問題も一瞬で消え去り、一石二鳥です。

そして、メディアに一斉に取り上げられたのも怪しいです。このようなネガティブな情報が全国レベルのESPNやBreacher Reportに取り上げられる場合、地元メディアはいつも球団から情報をもらっているお返しなのか、出血を防ぐようなポジティブなPR情報を出したり否定したりして球団側につきます。しかし、今回の場合、地元紙も同じように問題を取り上げていることから、なんらかの意図でペイサーズ内部からのリークがあったと推測できます。

それに、あとからこの情報が出て問題になってしまう時のことも考えいると思います。この問題が悪化してしまい修復できなくなった時のヘッジですね。問題があった後で、いざ新ヘッドコーチを雇うと思っても、タイミングが悪ければ、他チームにいいヘッドコーチを取られてしまい、動くにも動けなくなります。このオフシーズンにヘッドコーチを変えるかもしれない言われているチームは、ブレイザース、キングス、バックス、ウィザースと少なくありません。受け身で待つだけではなく、今のうちにビョークレンの首をいつでも切れる理由をつくって先手を打っているのではないでしょうか。

また、ビョークレンの態度は、選手ファーストのカルチャーを掲げるプリチャードにとっては頭痛の種にしかなりません。チームのトップがこのように相手をリスペクトしない態度をとっていると、球団のカルチャーに直で悪影響を与えるからです。

プリチャードは、4月には選手たちに「シーズンは良くなり、運も巡ってくると保証する」というような感情的なメッセージを送っていたそうです。選手たちに申し訳ない思いもあったのではないでしょうか。

インディアナはスモールマーケット(リーグ21位)なので、FAの選手たちの希望先チームではありません。少しでも良い選手がとれるように、選手ファーストのカルチャーはキープしておきたいでしょう。このようなチーム背景もあるため、今回のビョークレンの一件に関しては、人間性に問題のあるリーダーは球団の方向性にそぐわないと判断をされても仕方ありません。

リチャード・ジェファーソン:

「コーチ1年目で選手たちやフロントとの関係に問題がある?それはとても厳しい」

契約内容や、スタッフたちへの態度や選手たちの不満、ペイサーズのカルチャーづくりなどを総合的に考えると、今シーズンが終わったらビョークレンの解雇は濃厚だと思われます。プレーインで負けてプレーオフに行けなければ、尚更その可能性は高くなるでしょう。

すべてはビョークレンがどれだけ選手たち、そしてコーチたちと関係を修復できるかにかかっています。

ビョークレンがこの件について(記者会見で)

「タフな年だ。コーチになるために、このリーグでヘッドコーチになるために多くの挑戦があった。言い訳はしない。私は若いコーチで、学び、成長し、よくなろうとしている。これは私の責任だ。私がコーチなのでそれらの責任は私にかかっている。私はこのチームをコーチすることと、選手たち、コーチたち、球団との関係を愛している。彼らは良い人間で、私が変わらないと行けないし、変わる。成長し続けて学び続けなければいけない」


参考サイト:Inside the Turbulent Tenure of Indiana Pacers Coach Nate Bjorkgren/Inside early NBA ‘hot seat’ situations: Five coaches who need to finish strong, from the Bucks to the Wizards/Sources: Nate Bjorkgren’s future with Indiana Pacers uncertain due to issues with players, staff/What we know about the Pacers, Nate Bjorkgren and T.J. Warren

サムネイル画像:Photo by kelly Wilkinson/Indy Star