ウィザースはPGのラッセル・ウェストブルックをレイカーズにトレードした後、フリーエージェンシーでウェストブルックの抜けた穴を埋めるPGを必要としていました。今年はPGのフリーエージェントが多かったですが、スターターレベルでウィザースがサラリーを払えそうな候補はあまり多くはなく、恐らくロンゾ、ディンウィディー、グラハムらに絞られます。
その中でウィザースが選んだのが、サイズがありプレーを組み立てられるPGのスペンサー・ディンウィディーでした。ウィザースは彼がチームにフィットすると見ていたようです。
ウィザースのフロントは、フリーエージェンシーがはじまったばかりの月曜の午後にロスでディンウィディーと会い、契約について話し合いをしました。Part 1で、ウィザースは午前中にウェストブルックからのトレードの提案を受けていたばかりなので、このスピード感は流石です。
両サイドはその場で契約の骨子に合意。これが数日後にはなんと16年ぶりとなる5チーマー(5チーム・トレード)にまで発展します。今回はその複雑な経緯をメインに説明します。
5チーム・トレード詳細
このトレードに関わったチームとは、ウィザース、ネッツ、レイカーズ、ペイサーズ、スパーズの5チームです。このトレードを深掘りする前に、各チームが得たアセットをそれぞれ見ていきましょう。
ウィザースが得たもの:
- スペンサー・ディンウィディー(via ネッツ)
- KCP(via レイカーズ)
- モンテレズ・ハレル(via レイカーズ)
- カイル・クズマ(via レイカーズ)
- アーロン・ホリデー(via ペイサーズ)
- 31位指名権、アイゼィア・トッド(via ペイサーズ)
- キャッシュ(via ペイサーズ)
ネッツが得たもの:
- 2024年の2巡目指名権 グリズリーズ/ウィザースの最高順位(via ウィザース)
- 2025年の2巡目指名権 ウォリアーズ/ウィザースのスワップ(via ウィザース)
- 2015年の1巡目指名権のニコラ・モルティノヴ(via ウィザース)
- 約11.5億円のトレード・エクセプション
スパーズが得たもの:
- チャンドラー・ハッチソン(via ウィザース)
- 2022年の2巡目指名権 ブルズ/レイカーズ/ピストンズの最高順位(via ウィザース)
レイカーズが得たもの:
- ラッセル・ウェストブルック(via ウィザース)
- 2023年のブルズの2巡目指名権(via ウィザース)
- 2024年の2巡目指名権 ウィザース/グリズリーズの最低順位(via ウィザース)
- 2028年のウィザースの2巡目指名権(via ウィザース)
ペイサーズが得たもの:
- 22位指名権のアイゼィア・ジャクソン(via レイカーズ)
5チーム・トレードのブレークダウン
ウィザースの狙いは、レイカーズとのウェストブルックのトレードにディンウィディーの契約を入れ込むことでした。そうすれば、ウィザースはキャップスペースがなくてもディンウィディーの望むような約20億円のサラリーで契約することができます。
数字的には、ウィザースはレイカーズへ送るウェストブルックのサラリーの125%の約55.25億円を受け取ることができます。その中にディンウィディーとの新契約のサラリーを入れ込めばいいのです。実際のトレードの数字を見ていきましょう。
▪️レイカーズ
- ラッセル・ウェストブルック(約44.2億円)
▪️ウィザース
- カイル・クズマ(約13億円)
- KCP(約13億円)
- ハレル(約9.7億円)
合計:約35.7億円
ウィザースはこのトレードであと約19.55億円のサラリーを吸収できます。ディンウィディーをここに入れてしまえばトレード成立です!
はじめ、ディンウィディーの3年で約62億円の契約をするとレポートされていたのは、おそらくこの数字から来ていると思います。
実際にはディンウィディーの契約は約54億円の契約でしたが、ボーナスをすべていれると約62億円にまで行くようです。最後の年は約10億円のパーシャル・ギャランティーです。
ディンウィディーの契約詳細:
- 21-22: 約17,14億円+約3.47億円(+1ドル)ハードキャップなのでボーナスのすべてがキャップに計上されます。合計で約20.61億円
- 22-23: 約18億円+約3.47億円(+1ドル)
- 23-24: 約18,85億円+約3.47億円(+1ドル)
しかし、ウィザースは、ウェストブルックのトレードでレイカーズからもらったドラフト22位指名権をペイサーズに送り、アーロン・ホリデー(PG)とドラフト指名権31位を得ます。そうなるとウィザースにトレードで入ってくるサラリーの合計は約35.9億円からホリデー分が増えた約39.8億円へとあがります。
これには2つ問題が出てきます。
【A】ディンウィディーに出せるサラリーが約15億円に減ってしまう
【B】仮にディンウィディーが約15億円で来てくれても、サラリーキャップが14人で約136.44億円とタックスにギリギリになってしまう
この2つの問題を解決するには、自分のチームの選手をトレードすることです。
シンプルにレイカーズとペイサーズにトレード出来れば話が複雑にならずに済んだのですが、どうやら断られたようです。そのため、ウィザースは選手をサラリールームかTPEで吸収してくれるチームを見つけてくるしかありませんでした。
しかも、ディンウィディーに約19億円を払うのであれば、その出て行くサラリーは約4億円以上でなければいけません。さすがに1巡目ロッタリー指名の八村塁(約4.9億円)やデニ・アヴディア(約4.6億円)を出す訳にはいかないので、このトレードにちょうど良い約4億円のサラリーを持っているチャンドラー・ハッチソンをトレードに出すことにします。
ウィザースは、大きなサラリールームを持っていたスパーズにハッチソンを吸収してもらいました。ウィザースはそのスパーズの代償として2巡目指名権を渡しました。
これで、計算上はトレード成立です。
ウィザース:
- 出て行くサラリー:約48億円
- 入ってくるサラリー:約56.79億円(→60.25億円まで受け入れ可能なので、仮にディンウィディーのサラリーが約19.55億円でもギリギリ入った)
または、別の考え方としては、まずレイカーズとペイサーズとの3チーム・トレードが成立して、その後にスパーズとネッツが入ってきた2段階のパターンもあります。
ウィザースは、レイカーズへウェストブルックを送った事でうまれた約8.5億円のTPEに、そのままシンプルにアーロン・ホリデーの約3.9億円を入れてトレード成立です。ウィザースにTPEが約4.6億円残ります。
この時点では、ウィザースはネッツとディンウィディーのS&Tをしようとしていて、ディンウィディー獲得ために、レイカーズから受け取ったクズマやハレルをネッツにトレードしようと試みます。しかし、タックスを払いたくないネッツが、クズマやハレルを引き受けることを拒否…
そのため、ウェストブルックのトレードが、最終的に上記のようなネッツとスパーズを絡めた5チーム・トレードへと変貌を遂げたという可能性も考えられます。
この方が、なぜペイサーズのホリデーが入っているのか、なぜ交渉に時間がかかったか、そしてタンパリング回避の説明がしやすいので、実はこっちの可能性の方が強いかも、と思っています。
さて、このように計算上はトレードはできましたが、実際には大きな問題が2つ残っています。これらを何とかしない限り、ウィザースがディンウィディーを獲得することはできません。
- ネッツにディンウィディーのS&Tを合意させないといけない
- 実際にすでにウェストブルックのトレードに合意しているレイカーズに、ネッツを含めたトレードになることを了承してもらわないといけない
まずネッツとのS&Tがどうやって合意に達したのかを見ていきましょう。
ネッツの事情
ネッツはディンウィディーのS&T見返りに若いルーキー契約の選手と指名権のアセットを欲しがったそうです。指名権ならタックスには影響しませんし、ルーキー契約ならハレルらの約10億円のサラリーが及ぼす影響に比べれば安くあがります。
この時点で、すでにフリーエージェント市場が干上がりはじめていて、ネッツはディンウィディーが希望のチームに行くにはS&Tでしか行けないことをわかっていました(再建中で、いつかはトレードされるのが見えているサンダーに行くとは思えません)。
また、ネッツは、2022年のフリーエージェントになれるビールもディンウィディーを欲しがっていたのを知っていたそうです。
ネッツがタックスを払ってまでウィザースの要望に応じる義務もないことに加え、ネッツにはこのようにウィザースに対して強気で交渉ができる条件が揃っていました。ネッツの狙いはウィザースの1巡目指名権です。
しかし、ウィザースがトレードに出せる次の1巡目指名権は7年後の2028年です。ネッツのGMのショーン・マークスにとって、はたして自分がまだネッツにいるのかわからない2028年というずっと先のアセットに、その価値を見いだせななかったのではないでしょうか。
または、ウィザースが貴重な1巡目指名権を頑なに出さなかったのかもしれません。この場合、ウィザースはネッツとの交渉で少しでも強く出るために、バックアップとしてペイサーズからPGのホリデーを獲得していたという考え方もできます。
ネッツはウィザースから1巡目指名権が引き出せないのがわかると、ケイレブ・ホームリーとアンソニー・ギル以外のルーキー契約を欲しがったそうです。つまり、2019年のロッタリー指名の八村塁か2020のロッタリー指名のデニ・アヴディアのことです。それに対するウィザースの返事はとても早く、「ノー」だったそうです。
逆にウィザースもネッツの弱みを知っていました。キャップスペースがないネッツにとって、ディンウィディーのS&Tのリターンで生み出されるTPEは魅力的なはずです。仮にもしディンウィディーのS&Tで約11.5億円のTPEが得られれば、バイアウト市場でもMLEやミニマムしかオファーできない他チームよりも優位に立つことができます。このトレードが実現しなければ、ネッツは若い選手はおろかTPEさへもなくなってしまうのです。
結局、ネッツは何も得られなくなるよりも、2巡目指名権とTPEを得ることを選びました。
レイカーズの事情
ウィザースは今度はレイカーズを説得しなければなりません。レイカーズはすでにウェストブルックのトレードに合意していたので、今シーズン優勝争いをするかもしれないネッツを助ける義理もなく、ひょっとしたら、このトレードでネッツが得るTPEで今シーズン後半のバイアウト市場で負けてしまう可能性すら出てきます。
ウィザースはレイカーズにこの5チームトレードを納得してもらうため、もともとの2024年と2028年の2巡目指名権に2023年のブルズの2巡目指名権もつけました。2022–23シーズンにはレブロン、AD、ウェストブルック、THTの4人だけで約148億円になってしまうレイカーズは、2023–24シーズンにもしレブロンとウェストブルックと再契約すればキャップがないどころかタックス突入は間違いありません。レイカーズにとって、2巡目指名権は、サラリーが低いし、トレードにも使えるし、使い勝手が良いアセットだと思います。
また、ニックスがエヴァン・フォーニェのS&Tで、セルティクスに2つの2巡目指名権を出しているので、ウィザースの他チームとのS&Tを2巡目指名権ひとつで了承したのは相場的にも適正価格だったようです。
それにバイアウト市場ですが、レイカーズは結構使える選手を揃えることができそう+タックスが増えるため、今シーズンはあまり興味がないのかもしれません。
テレビ放映権が約200億円はいくとはいえ、バス家の稼業は他のオーナーと違ってレイカーズです。コロナもデルタ株やラムダ株も出てきていますし、今後もどうなるかわかりません。タックスはできるだけ避けたいところでしょう。
また、ウィザースはレイカーズとのウェストブルックのトレードが成立しなくても良しと見ていたようです。そのため、交渉も強気に出られたのかもしれません。
ウィザースのGMのトミー・シェパード:「もし交渉が決裂していても、ラスはまだ私たちのチームでプレーする。私たちみんなはそれにもハッピーだっただろう。私たちはチャンスがやってきたのでそれに乗っただけだ。両サイドにとって良いディールでメイクセンスだった」
こうしてレイカーズもトレードに合意し、5チーム・トレードが終了しました。
ウィザース
ウィザースは、この5チーム・トレードで4人のNBAでスタートできる選手を獲得することができました。ウェストブルックを失いはしましたが、総合的なチーム力はあがったのではないでしょうか。
またウィザースにとって、1巡目指名権も八村選手やアヴディアをあきらめなかったのも大きかったと思います。
シェパード:「私たちはバックコートにいた殿堂入り確実のラッセルを失った。でもウィングがよりフレキシブルになった。私たちには今プレーできる選手たちが必要だった。そして未来を犠牲にしなかった…ヴァーサティリティーがあるのは本当に重要だ。それがこのチームの強みになる。昨年はそれがなかったと思う。層も昨年は厚くなかった。今はそれがある」
また、ジェパードはこのトレードを振り返り、「みんながこれから自分たちを良くするための何かを得なければならなかった。今回はみんながそれをできた。素晴らしいシチュエーションだった。とても珍しい。リーグの歴史でも2回目の5チーム・トレードだったと思う。お互いに良いことをやり続けて、誰かがそれから何かを得る。これはもっと頻繁に観られるようになると思う。クリエイティブなものだった。確かに欲張ったが、そうする価値はあった」
その代わり、ウィザースはこのトレード1つで5つの2巡目指名権と1つの2巡目指名権スワップを出しています。しかし、それは元々シェパードの狙いだったようです。
彼はGMに就任した時に、2巡目指名権はただドラフトするだけではなく資金として使って行くと言っていました。GMになってから最初の夏に4つの2巡目指名権を集めたのは「資金集め」だったそうです。今回で早速、いいタイミングでいい「資金」の使い方ができたのではないでしょうか。
今、ウィザースのサラリーは14人で約134.36億円で、タックスまで 2.24億円です。ハードキャップまでは約8.64億円で、ディンウィディーのボーナスを入れてもエプロンに収まります。
また、ロスターがフォワードがヘビーでガードが薄いので、そのバランスをトレードで修正しつつサラリーも削ることもできます。
バックコート | ディンウィディー、ホリデー、ネト、ビール、KCP |
ウィング | 八村塁、デニ・アヴディア、カイル・クズマ、ダヴィス・バータンス、コリー・キスパート |
ビック | トーマス・ブライアント、ダニエル・ギャフォード、モントレズ・ハレル |
まだウィザースのオフシーズンは終わっていないのかもしれません
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次回はウィザースの5チーム・トレードを、スペンサー・ディンウィディーの視点から見ていきたいと思います。
三部作 Part 3:「ウィザースの5チーム・トレード Part 3:ディンウィディーのサイン&トレード篇」お楽しみに!
参考サイト:How the Wizards’ complex Spencer Dinwiddie deal came together, and what it means for the team