クリッパーズとヘッドコーチのドック・リヴァースがお互い別々の道を進むことで合意しました。(実質解雇)
優勝候補と言われながらもプレーオフWCSFで敗退してしまいましたが、誰もクリッパーズがリヴァースを解雇するとは思っていませんでした。
その理由は以下になります。
・ドックはヘッドコーチとしてリーグトップレベルとして見られており、首にしたとしても彼よりも良いコーチが今手に入るのか?
・素晴らしいリーダーと言われている
・ヤフーのクリス・ヘインズがドックは来年も戻ってくるとレポートをしていた
・カワイをリクルートしたのもドックで、カワイはクリッパーズを選んだのもドックの元でプレーしたがっていたのも理由にあったからで、まさか「プレーヤーの時代」と言われている今、カワイの意思に反してドックを解雇するとは思わなかった
・プレーオフを3-1とリードしながらも敗退。しかし、シーズン中はケガが多く、バブルでもコロナやケガや家族の不幸が続き、全選手が集まって練習できたのはシーズン通して数回だった。そのため、勝てなかったのはドックのせいではなかったと考える人が多い。来シーズン仕切り直して、健康なクリッパーズがどうなるか見てから考えればいいと思っていた
それでもクリッパーズ、というよりも、オーナーのスティーヴン・バルマーはドックでは来シーズン戦えないと判断しました。
なぜか?
今回は、ドックとクリッパーズの間にどんな問題があったのか探っていきます。
ドックとクリッパーズ
まずはドックとクリッパーズの関係を振り返ってみたいと思います。
2012-13シーズン:57勝25敗
ドックは、KGやピアースがいなくなって再建モードに入ったセルティクスでコーチはしたくなかったそうで、セルティクスから出て行くことを希望。しかし、ドックにはまだ契約が残っていたため、クリッパーズにはセルティクスとのトレードでやって来ました。クリッパーズはセルティクスに2015年の1stラウンドピック(プロテクションなし!)を送っています。
そうしてドックはクリッパーズのヘッドコーチ兼VPになりました。
ドックは、自信が揺らぎがちなグリフィンに自信をつけさせ、ジョーダンにはディフェンスに目を向けさせ、球団史上最多勝となる57勝を達成。ウェストで3位。
2013-14シーズン:56勝26敗(ウェスト3位) ドラルド・スターリン・サガ
クリッパーズのオーナーだったスターリンは、人種差別で自分の選手を奴隷(または競走馬)かのように接していたそうです。彼の愛人が彼の人種差別発言をリークし、大問題に発展。プレーオフ中でしたが、クリッパーズは試合をボイコットする話も出ていました。それをなんとかVP兼ヘッドコーチのドックがまとめて乗り越えました。ドックの評価がアップ。
そして、NBAコミッショナーのアダム・シルヴァーはスターリンをNBAから追放し、世界でも有数な富豪のスティーブ・バルマーがクリッパーズを約2000億円で買収。しかもキャッシュで😲。
ドックとクリッパーズは5年の契約延長。
2014-15シーズン:53勝29敗(ウェスト4位)
プレーオフ・セミファイナルでロケッツに3-1とリードしながらも敗退。
2015-16シーズン:51勝31敗(ウェスト4位)
グリフィンなどケガに苦しんだシーズンでした。
2016-17シーズン:42勝40敗(ウェスト10位)
クリッパーズのフロント改革の一環で、ドックはVPから退き、ヘッドコーチに専念。VPにはローレンス・フランクが就任しました。
契約延長。
2017-18シーズン:48勝34敗(ウェスト8位)
シーズン前にCP3のトレード要求。ロケッツからビヴァリー、ルー・ウィリアムス、モントレズ・ハレルを獲得。
生涯クリッパーズと約束をした約100億円の契約をしたブレイク・グリフィンをピストンズにトレード。トバイアス・ハリスらを獲得。
2010-11シーズンぶりにプレーオフ進出を逃しました。
2018-19シーズン:
再建と言われていて、ドラフトピックをキープするためにタンクするかと言われていましたが、バルマーは拒否。
予想に反してプレーオフに進出。ハレル、ビヴァリー、ルー、ガリナリらのアンダーフドック精神で、優勝候補筆頭のウォリアーズ相手に2勝。この快進撃シーズンでドックの「プレーヤーズ・コーチ」という評価が再びアップしました。
2019-20シーズン:
カワイとポール・ジョージを獲得。このリーグトップレベルのウィング2人と、ハレルやルーがいるベンチの層の厚さもあり、優勝候補筆頭と言われていました。
しかし、セミファイナルで3-1とリードしながらもまたまた敗退。バルマーがこれを経験するのは2015年に次いで2度目。
バブルでは選手たちが警察の暴力に対してボイコットした時に、黒人コーチとして選手たちをまとめました。涙をこらえながらのインタビューも皆の心を掴みました。今民主党から大統領候補に指名されたジョー・バイデンも選挙活動でのスピーチで、この時のドックの言葉を使っているほど心に訴えかける内容でした。
“We keep loving this country and this country doesn’t love us back.”
Doc Rivers got emotional while talking about Jacob Blake being shot by police and social injustice. pic.twitter.com/qQI2Ld2DGI
— ESPN (@espn) August 26, 2020
スティーヴ・カーはドックをリスペクトしていて、「NBAには彼が必要だ」と言っています。このように、ドックはクリッパーズの顔のような存在でした。そんな彼と袂を分かつようになったのは、どうやら3-1リードからの逆転敗退が理由だけのようではないようです。
プレーオフ敗退後
プレーオフ敗退後、スティーヴ・バルマーとドックは数回ミーティングをして話し合ったそうです。
そのミーティングの中で、リヴァースは、来シーズンの改善点は、スタッフの入れ替え、戦術の修正、今年やってきたことから続くケミストリーが良くなることをあげていたそうです。
しかし、バルマーはドックの話を聞いても腑に落ちなかったようです。バルマーは、なぜチームにリーダーシップがないのか、なぜケミストリーがないのか、なぜ選手たちはバブルでプレーすることに冷めているのかなどに疑問を感じていたようです。
お互いに別の道を進んだという事は、バルマーはドックからその答えを得られなかったようですね。
こうして見ると、バルマーはリーダーシップやケミストリー等のマネジメントを気にしていて、ドックはそれよりももっと現場よりのディテールを気にしています。お互いにビジョンを共有できずにすれ違いが生まれていたようです。
特にオーナーの長期的な目線と、結果やディテールが大切なヘッドコーチの短期的な目線は同じところを向かないケースが多いと思います(どんな組織でもそうだと思いますが)。今回もそのケースになってしまったのではないでしょうか。むずかしいところですが、スパーズやヒート、ウォリアーズのようにトップとヘッドコーチが一枚岩になって成功している事例もあるので、不可能ではないはずです。
では、クリッパーズのロッカールームは、バルマーがドックに疑問を持つほど機能していなかったのでしょうか?
リーダーシップとケミストリー:ロブシティー時代
ドックは、セルティクスの荒くれ者たち(KG、ピアース、パーキンス、ロンド、トニー・アレン、スカラブリニ ら)をまとめて優勝した時からリーダーシップがあると評価されてきました。
しかし、ロブシティー時代(クリス・ポール、ブレイク・グリフィン、デアンドレ・ジョーダン、JJ・レディック)のクリッパーズのロッカールームのケミストリーは微妙だったようです。
JJ・レディックがクリッパーズについて:
「よく思い返すのだけど、チームを助けるために個人的にも違うことができたはずだ。あのチームが1度も優勝していないのはおかしい」
「あれは変だった。なぜなら、個別ではみんな本当にお互いにクールだった。コートの外ではみんなが良い関係を築けていた。でもとてもたくさんのつまらない事があった。ただのつまらない事だ」
One of our personal favorite interviews of the year with Duke legend JJ Redick today. Listen here —> https://t.co/hyFDGAlb6K pic.twitter.com/EKTGtfmfoV
— Pardon My Take (@PardonMyTake) August 22, 2018
特に、クリス・ポールとブレイクの仲は良くなかったことは知られています。それはクリス・ポール本人も、次のように認めています。
クリス・ポールがブレイクとの関係について:
「それがなくなるまで自分が何を持っていたのかわからないものの1つだった。時々それについて考える。私とブレイクには間違いなくあちこちで問題があった。でも去ってからブレイクのことはより感謝していると思う」
Chris Paul with some real talk on his relationship with Blake Griffin.
via All The Smoke with @Matt_Barnes22 and @DaTrillStak5.
Full video:https://t.co/uOFd1ygZsM pic.twitter.com/mkUqA84fOI
— Dime (@DimeUPROXX) April 3, 2020
この頃は、ドックではななく、クリス・ポールのチームメイトたちへの接し方が批評されているように思いました。ドック自身も次のように言っています。
「私たちは昨年はよそよそしかった。彼らとはいっしょにいたくなかった… あのグループを好きになるはむずかしかった。なぜなら彼らはお互いを気に入っていなかったからだ。それをどうにかしようと思わなければいけなかったが、私たちはそれをどうにかしようと思う事ができなかった」
リーダーシップとケミストリー:クリッパーズ2.0
そして、クリッパーズ2.0もロッカールームは良くなかったとのレポートがあります。
元々クリッパーズにいたハレル、ビヴァリー、ルーたちは、新しく入ったカワイとポール・ジョージの待遇が良すぎて不公平だと感じていたようです。
プレーオフのナゲッツとのシリーズでもポール・ジョージとハレルが言い争いをしてしまいました。
PGとハレルが、ナゲッツとのゲーム2のTO中に口論をした。囲まれたハレルにPGがパスを出してTOになり、ハレルがPGにリスキーだと言ったら、ハレルのせいだ的な事を言われた。ハレルは「お前はいつでも正しい。誰もお前には何も言えない」的なことを言い返したhttps://t.co/Ok5nQVU5zw @YahooSportsより
— NBA Reporter (@NBA_Reporterjp) September 17, 2020
シリーズ敗退の後、ポール・ジョージを口ばかりで結果を出せないと思っていたチームメイトたちもいたようです。
クリッパーズがプレーオフ敗退した後のロッカールームで、ポール・ジョージとチームメイトはどんな感じだったのか、Shamsがレポートしていたので抜粋。
(🖊️/@ShamsCharania) pic.twitter.com/Ffd4Y9DeWr
— NBA Reporter (@NBA_Reporterjp) September 22, 2020
本当かどうかはわかりませんが、カワイのトレーナーがポール・ジョージのバスケIQに疑問を持って不満を言っていたという話もあります。(これでポール・ジョージのトレードの噂がこれから増えると思います)
ロッカールームの問題はシーズン中にもあったようで、その様子がオールスターの前のシクサーズ戦で垣間見ることができます。
前半残り12.9秒のインバウンドプレーでドックはカワイに代えてシャメットをコートに送ろうとましたが、カワイがドックに「まだ12秒あるんだ!2点負けてるんだ!」と叫んだそうです。
カワイがこんな風に感情的になるのは珍しいので、ドックはカワイの交代を辞めて、代わりにルーと交代。
ハレルのスクリーンから抜ける準備をしていたルーは、交代に不満な様子でした。
このようにして見ると、ドックの選手たちをまとめる能力は過大評価されているようです。セルティクスの荒くれ者たちをまとめていた時は、KGという稀有なリーダーがいたので、選手たちが彼を中心に勝手にまとまったのかもしれず、実際のドックは、あまり選手たち同士のことは関せずに、選手同士のことは選手同士で決めてくれ、みたいなアプローチをしていたのかもしれません。
コーチは戦術だけではなく、選手たちとどう関係を築いていくかも重要なコーチとしての役目です。
むしろ最近は、キャブスのビーラインやネッツのアトキンソンのように、選手たちをまとめられずに辞任するケースもあるくらいなので、いかにそれがコーチにとって大切なことかがわかります。
バルマーも、ロブシティー時代と今のカワイとポール・ジョージのクリッパーズのケミストリーが連続で機能しないのを見てきているので、ドックのロッカールームのマネジメント能力に疑問を持ったのではないでしょうか。エースのカワイもリーダーシップがあると言えないので、ドックがカバーしてあげないといけなかったかもですね。
コーチング
では肝心の試合中の戦術はどうだったのでしょうか?
よく言われているのが、ドックはなぜナゲッツのシリーズでズバッツではなく、コンディションが悪く守備ができないハレルを使い続けていたのか、というものがあります。数字もハッキリとズバッツの方が良いと出ていただけに言い訳の仕様がありません。これにはジャーナリストたちだけではなく、選手、フロントまで同じ感想を持っていました。素人の私が気づくくらいなので、これはアウトでしょう。しかもそれをシーズンが終わるかもしれないゲーム7でやってしまいました。コーチングに疑問を持たれてしまっても仕方ありません。
また、セルティクスにはロンド、クリッパーズではクリス・ポールと、ドックには必ず優秀なPGがいてゲームをコントロールしていました。しかし、クリッパーズ2.0ではプレーメイクでチームメイトをセットアップできる選手がいません。ドックもプレーメークできるPGの補強が必要な事は言っています。ひょっとしたらサイドラインからはプレーコールなどはあまりしないスタンスなのかもしれません。それでプレーオフで後手にまわってしまっていた事も考えられます(イコール、うまくいかない時も選手たちに任せ過ぎ?)。違うチームで、プレーオフで3-1から3回も逆転負けされているという事は、運だけではなく何か彼にも原因があるのだと思います。
今回のプレーオフでも多彩な戦術を繰り広げたニック・ナースやブラッド・スティーヴンス、フランク・ヴォーゲル、エリック・スポエルストラらに比べて物足りない感はありますね。それを言ってしまうと、ドックだけには限らないのですが…
バルマーの決定
バルマーも2度目の3-1からの逆転での敗退に激怒して感情的になってドックを首にした訳ではなさそうです。彼は、プレジデントのフランク、少数株主のデニス・ウォンとも相談していたそうです。もちろん、クリッパーズのコンサルのジェリー・ウェストからもアドバイスを受けています。そして、重要なのは、再来年にはFAになってしまうかもしれないカワイとポール・ジョージの意見も聞いているとのことです。
その上で、バルマーが最終決定を下し、ドックとどうやって世間に発表するかを話し合ったそうです。
ドックは、カワイとポール・ジョージが決定した後、フランクに「もし優勝できなかったら、みんな首だね」とジョークを言っていたそうですが、1年でそれが実現してしまいました。
これからクリッパーズはドックに変わるヘッドコーチを探す(もうインタビューもしている)訳ですが、バルマーが想い描くチームのヴィジョンを実現できるヘッドコーチを見つけられるでしょうか。思えば、バルマーが球団を約2000億円で買った時はすでにドックがいたので、彼にとってはこれが初のコーチ選びになります。ちなみに、クリッパーズは、タイロン・ルー、スティーヴ・カー、ニック・ナースのようにコーチ1年目で優勝したケースも研究して来ているとのこと。ドックのアシスタントをしていたルーな内情も理解しているのでうまく行きそうですが、はたしてバルマーはどのようなチームをつくっていくのでしょうか。
シクサーズ
そんなこんなでクリッパーズを離れたドックは、その3日後にはシクサーズのヘッドコーチが決まってしまいました。
シクサーズのGMのエルトン・ブランドとオーナーたちと会ったのは1度だけです。一緒にプレーオフのファイナルズのゲーム3を観戦したとも言われています。ドックはおそらくプレゼンも資料も持って行っていないと思われます。それでも速攻で次のチームが決まったのは、ドックがNBA関係者からどれだけリスペクトされているのかがわかるエピソードだと思います。
ただ、シクサーズのロッカールーム(ジョエル・エンビードとベン・シモンズ)は良くない噂あり、なんだかクリッパーズのデジャヴのようですね。
しかも、PGはベン・シモンズで、これまでドックが頼ってきたようなチームメイトをセットアップするPGタイプではありません。はたしてドックはサイドラインからプレーごとにサインを送ってゲームのマネジメントをするようになるのでしょうか?
それともベン・シモンズにスリーを撃たせて、プレーメイクできるように成長させることができるのでしょうか?
クリッパーズで一緒だったトバイアス・ハリスは、ドックの元で再びクリッパーズ時代の輝きを取り戻せるのでしょうか?
ドックはエンビードを説得して、彼のコンディションをキープし続けることはできるのでしょうか?エンビードはシモンズのペースに合わせて走る事ができるようになるのか?
アル・ホーフォードはどう使うのか?(トレードかな?)
シューターは獲得できるのか?(あれ、もうドックの話ではなくなってますねw)
イーストもバックス、ヒート、セルティクス、ラプターズ、ネッツと面白いチームが増えてきました。そんな中でドック率いるシクサーズがどうなるのか注目していきたいです。
参考サイト:How the Doc Rivers and LA clippers partnership fell apart
サムネイル画像:Photo by The Canadian Press