ロケッツの展望

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ヒューストン・ロケッツ

数年前の2017-18シーズンではウェストでベストの成績(65-17)を収め、2018年にはハーデンがMVPに選出されました。GMのダリル・モリーもエグテクティブ・オブ・ザ・イヤーを獲得。2017年にはダントニもCOYに選出されており、フロントやコーチから選手まで超優秀で優勝候補チームでした。

2019-20シーズンはセンターをトレードし、マイクロボールに特化して優勝を狙いましたが、プレーオフではサイズがあるレイカーズに2ndラウンドで敗退。その直後にヘッドコーチのマイク・ダントニが帰る機内から契約更新はしないと告げ、そして先日13年間勝ち続けてきたGMのダリル・モリーが辞任。

数年前まではベストコーチのダントニ、ベストGMのモリー、ベストプレーヤーのハーデンが揃っていましたが、今ではダントニもモリーもいなくなり、ハーデンしか残っていません。しかも、キャップもドラフト・アセットもなく、ロケッツの未来が不透明になってきました。優勝をこのまま狙って行けるのか、それとも再建するのか…? などの話題も出てくるようになりました。

なぜ、ハーデンとウェストブルックのスーパースターが2人いるにも関わらず、このような話が出てくるのか?それはオーナーのティルマン・ゲルティッタに起因しているかもしれません。

これからロケッツはどうなっていくのかをまとめました。

 

ロケッツの新オーナー

ティルマン・フェルティッタは2017年に、前ロケッツのオーナーのレスリー・アレクサンダーから当時スポーツ球団最高取得金額の約2.2兆円で購入しました。ティルマン・フェルティッタは、ホテル、レストラン、カジノなどを所有していていて、有名なところではモートンズ・ステーキハウスやブバ・ガンプ・シュリンプ Co、ゴールデンナゲット・ホテルなどがあり、その資産は約4800億円とも言われています。

ビジネスマンとしては大きな成功を収めたティルマン・フェルティッタですが、彼が球団運営に関わると悪い方向に向かって行っているような気がします。

(Photo: Jon Shapley/Houston Chronicle)

 

彼がどういう人物なのか、彼の発言と行動を比較しましょう。

2017-18シーズンのサラリーキャップ:

タックスラインは約119.2億円。
ロケッツのシーズン終了時のキャップは約118.5億円。

クリス・ポールをトレードで獲得し、なんがかんだでオフェンスはリーグNo.1。プレーオフではウェスタンカンファレンスの決勝でウォリアーズ相手に3-2でリードしていたが、G5でポールがハムストリングを損傷し、G7ではスリーを27本連続で外して4-3で敗退。

シーズン中のフェルティッタ:「優勝ができるチャンスあると思うなら、タックスを払う事は問題ない」

 

2018-19シーズンのサラリーキャップ:

タックスラインは約123.7億円。
ロケッツのシーズンスタート時は約135億円。キャップはサラリーとタックスで約156.4億円になりました。

シーズン前は、バードライツがあり相手チームのエースを守っていたアリーザと契約せず(サンズと1年で約15億円で契約)。LMAM(クリッパーズと約4.3億円で契約)。

優勝まであとひとつのところまできたロケッツがついにタックスを払うか!?

しかし、シーズン終了時のキャップは約122億円!またアンダーに入ってきました。

ライアン・アンダーソンとメルトンをサンズへ送って獲得したナイトとクリスのサラリーをダンプするために、2019年の1stラウンドピックをつけて三角トレードで放出。ジェームズ・エニスもシクサーズへ。タックスをかわすために多くのトレードをした。

シーズン後のフェルティッタ:「昨年タックスから抜けれたのはたまたまだ。私たちはタックスに入っていた。あれ(タックスを抜けられたの)は偶然だ」

GMのモリーはタックスを払うグリーンライトを得たという情報が出はじめる。

 

2019-20シーズンのサラリーキャップ:

タックスラインは約132.7億円。
ロケッツのシーズン終了時は約128.5億円。

MLEをフルで使いませんでした。7つあったTPE(最大約3.6億円)にも手をつけませんでした。

ジャバリ・ヤング:「フェルティッタは、約140億円になったサラリーをカットしてタックスを避けようとしている」

タックスを払いたくないのがよく数字に表れています。しかし、いつもタックスを払うつもりだったとか言ってしまっているので、もうどれだけ彼を信用したら良いのかわかりません。

そしてロケッツのロッカールームの外にあるミューラル:

フェルティッタが2人いてメインは中心に。彼の家族が大きく描かれ、モリーや他の選手たちに冷たい…😅

 

ダントニの契約延長失敗

ヘッドコーチのマイク・ダントニの契約が2019/20シーズンで切れるため、2019年のオフシーズンに契約延長の交渉をしていました。マイク・ダントニは、ジェームズ・ハーデンをPGにコンバートしてMVPを取らせ、ロケッツを優勝候補に導いた立役者の1人です。しかし、ロケッツが提示した金額はなんとリーグ最低レベルの約2.5億円。優勝すればボーナスで約8億円になるようなオファーだったそうですが、これにダントニのエージェントのレガリエさんが激怒。交渉は決裂で、延長がないままシーズンに入りました。アシスタントコーチも入れ替えがあり、なんだかまとまっていない印象でした。

どうやらフェルティッタはタックスだけではなく、フロントやコーチたちにはお金をかけたくないようです。フロントには選手のようなサラリーキャップはないので、本来ならいくらでも金は使えます。人数の制限もありません。クリッパーズのように金さえ払えばいくらでも優秀な人材を集める事ができます。その気があれば、リヴァースやルーを約10億円の5年契約でシクサーズやクリッパーズからかっさらう事もできたと思います。(だからといって優勝できるか限らないのがスポーツ)

(Photo: Brett Coomer/Houston Chronicle)

選手のコンディションをつくるメディアカルチームにも影響してきます。マブスがこのあたりに投資をしたりして強化しているようですが、ロケッツは遅れをとるのでしょうか。

話がそれてしまいましたが、このあたりからフェルティッタは金を払わないというイメージが確立されました。

 

ラッセル・ウェストブルックのトレード

遡れば、モリーの辞任はラッセル・ウェストブルックのトレードが起因しているようです。モリーもダントニもクリス・ポールを気に入っていましたが、フェルティッタはクリス・ポールの契約を「今までみた契約の中で最悪」と言って嫌っていたそうです。ハーデンもクリス・ポールとうまくやっていくつもりはなかったようで、2019年のオフシーズンにフェルティッタとハーデンがポールのトレードをプッシュしました。

ロケッツは、クリス・ポールを、ハーデンの子供の頃からの友人のラッセル・ウェストブルックとトレードします。

ラッセル・ウェストブルックとクリス・ポールの契約金額は同じで、ウェストブルックの契約年数が1年長いくらいです。シュートがなくボールを必要とするウェストブルックとハーデンのフィットは疑問視されていましたが、クリス・ポールも年の衰えとケガのリスクがありました。こうみると一見プラスに見えますが、実はこのトレードでロケッツのチームづくりの自由度がなくなってしまったのです。

問題は、ロケッツはサンダーにドラフト・アセットを渡さなければならなかった事です。結果、トレードやタックスを避けるためにドラフト・アセットを出し続けてきましたが、このトレードで長期的にドラフト・アセットを失ってしまいました。

これがロケッツの未来を決めて行きます。

 

ドラフト・アセット

ロケッツのこれからのドラフト・アセット(1stラウンドピック)を調べてみました。2026年までは以下の通りになります。

・2020年はなし。

・2021年はサンダーとスワップ

・2022年あり

・2023年あり

・2021年はサンダーとスワップ(トップ4プロテクション)。

・2025あり

・2026年もサンダーとスワップ(トップ4プロテクション)。

*CBAの規定により、2023年と2025年はトレード不可。

2020年のドラフトが終われば、2021年のスワップしたドラフトピックか、2022年のドラフトピックをトレードできるようになります。

ここでの重要なポイントとしては、来シーズンの2022年と2023年にドラフトアセットがあるという事です。

タンクをするならここが狙い目です。

フェルティッタはファンに来シーズンも優勝を狙うことを約束しましたが、来年ドラフトピックが2022年までないのでタンクしても仕方がないという意味にも聞こえます。

チームを再建するとしたら、早ければシーズン中にサラリーを減らすトレードをして、2021年のオフシーズンにハーデンか(と)ウェストブルックをトレードするでしょう。本格的な再建のタイミングは2021-22シーズンからになるでしょうか。

 

ヘッドコーチ・サーチ

新ヘッドコーチ探しも難航しています。

モリー時代のロケッツはスパーズに次いで最も勝率が良かったチームで、今でもハーデン、ウェストブルックというMVPスターら主力選手を擁しています。それなのに有名で実績があるヘッドコーチの名前はあがってこず、なにか違和感を覚えます。ペイサーズの方が、幅広くインタビューをしている印象です。

コーチ探しを主導していたのもGMのモリーではなく、新GMのストーンだったそうです。エージェントは何か変だな、と思うでしょう。

実績があるヘッドコーチを呼べない理由の1つに、ロケッツの未来が不透明さがあります。

ドラフト・アセットでも見たように、チーム状態をみればいつ再建に入ってもおかしくありません。

チームを改善するためのキャップもドラフト・アセットもないので、ハーデンかウェストブルックのトレードがてっとり早く、今なら最高値で売れます。もしくは彼らからトレード要求が出るかもしれません。MVP選手2人がいると思ってコーチを引き受けたら、いなくなってしまうかもしれない…

そして、ダントニのセクションで見たようにサラリーの低さも影響しています。インタビューは最初からアシスタント・レベルの人だったので、この規模感は変わっていないと思います。

逆に言えば、球団サイドもいつ再建するかわからないので、名があるヘッドコーチと長期契約を望んでいないのかもしれません。例えば、優秀なヘッドコーチを約5億円で4+1の5年契約を結んだとしても、もし2年後に再建した場合、そのヘッドコーチも辞任する可能性があり、その場合、残りの契約金の約10億円を払い続けなければいけないリスクがあります。実績があるヘッドコーチは2年契約はしないはずですから、自ずと選択肢から外れてきます。

なので、ロケッツの次のヘッドコーチは、アシスタントレベルから採用し、契約年数は2+1とか3+1になると思います。それでハーデンとウェストブルックが納得するのかはわかりません…

今最有力なのは、ハーデンや選手たちからの信用もあり、元キャブスでのヘッドコーチ経験もある現ロケッツのアシスタントのジョン・ルーカスと、ジェフ・ヴァン・ガンディーと言われています。JVGならハーデンも納得しそうですし、JVGも長い間のブランクがあるので、安く短い契約でも引き受けてくれるかもしれません。

ただ、ここで思うのは、同じくスーパースターが複数人いるレイカーズ、ネッツ、ウォリアーズ、クリッパーズもこういうヘッドコーチの探し方をするでしょうか?しないでしょう。実際、クリッパーズもレイカーズもネッツもしていませんでした。

これはオーナーの勝つ「意思」よりも金の「節約」の方が大事だということを示しています。ハーデンもウェストブルックも素晴らしい選手なので、実績も経験もあるコーチの元でプレーをして欲しかったです。残念です…

サラリーキャップ

これはいくらになるかまだわかりません。昨シーズンと同じ約109億円だという人もいれば、予定通り約115億円をキープするという情報も出ています。

どちらにしろ、ロケッツのキャップはリーグでもきびしいチームの1つだと思います。

現在、リヴァースやチャンドラーのキャップホールドを入れて約138億円です。彼らの権利を放棄すれば、ハーデンの約41.2億円、ウェストブルック約41.3億円、ゴードン約16.8億円、カヴィントンの約12.1億円、タッカーの約7.9億円、ハウスの約3.7億円の6人で約123億円(ロースターチャージ含む)になります。タックスが約132.6億円(約109億円の場合)だとすると、MLEもフルで使うと約9億円(約109億円の場合)。仮にMLEを2人に使って、残り6人ミニマムで14人のロースターを組むと、確実にタックスに突入します。

実際の動きとしては、契約が残っている6人に、8人のミニマム選手(約1.6億レベル)を揃えて行きそうな気配がします。マクレモアもいれてもいいかもしれません。

この問題は、今ロケッツに数億円の契約の選手がいないので、トレードする時の微妙なサラリーの調整が難しくなります。そのため、タックスをかわすトレードがあるとしたらトレード・デットライン前になると思います。

そしてタッカーの契約延長もあります。今35歳のタッカーとしては今年契約更新をしたいところでしょう。来年は36になり、長期契約も更にむずかしくなります。その時はもちろんロケッツは彼らと同じかそれ以上を払ってタッカーを引き止めなくてはいけません。マイクロボールもタッカーなしでは成立しないからです。マイクロボールする前提ですが… (でも36歳でMLE以上の金額で3+1の契約もむずかしいかも…そもそも、もしロケッツと契約延長なら今年のサラリーの20%アップで約9.6億円からなのでMLEとさほど変わらず… それならタッカーにとってロケッツがベストの選択かも)タッカーに払うとしたら、ロケッツ以外にないでしょう。ハーデンの力でなんとかならないものでしょうか。

話がズレてしまいました。結論ですが、シーズンはじまって優勝が狙えないとわかったら、いつものようにタックスを抑える動きをするはずです。特に高くても安くてもサラリーマッチに使いやすいゴードンの契約は、トレードに出されるのではないでしょうか。それで約4億円は浮くはずです。

 

オーナー問題

このように、最後はフェルティッタが金を出さない、ということに行き着きます。

フェルティッタにはお金(キャッシュ)がないという話もよく聞きます。

ロケッツを買収した時も、なぜか前オーナーのアレクサンダーから約275億円を借りています。債務引受が約175億円で、あとは社債を発行して約1750億円を集めたそうです。なので、クリッパーズのバルマーのようにキャッシュリッチではありません(バルマーはキャッシュでクリッパーズを買った)。タックスを払いたがらないのも、ヘッドコーチに7億円×4年払いたがらないのもわかります。

しかも、現在彼のメインビジネスであるホテル、カジノ、レストランがコロナで全滅しましたから、余計キャッシュがありません。

モリーも、2017年にフェルティッタがロケッツを買う直前に、前オーナーのアレクサンダーと契約延長をしていますが、辞任したため、その残りの契約金もバイアウトして安くしているとの噂です。

(Photo: Tim Warner/Getty Images)

また、球団的には、モリーの香港人権サポートのツィートにより、中国からの約7億円のスポンサーシップがなくなったことも痛いでしょう。中国企業に打ちきれれた複数年契約はトータルで約20億円にもなると言われています。

ここまでくるとフェルティッタにとって2019-20シーズンは踏んだり蹴ったりで大変だと思いますが、彼には資産も何兆円もあるので同情はしません😣。これも彼の言うフェルティッタイズムで乗り切って欲しいですね。

最悪マイノリティーオーナーを見つけて10%の株式をあげれば、1シーズンは運営できてしまうと思うので、少数株主を募ってもいいのではないでしょうか。100%所有が主義で、それにプライドを持っているそうなので、球団は誰かとシェアしないと公言していますが…

 

ロケッツの未来

問題は再建をするのかどうかではなく、いつになるかという事でしょうか。ハーデンも31歳なので、あと数年でロケッツの新時代を託せる若いブリッジ選手が欲しいところです。てっとり早いのはウェストブルックのトレードでしょうか。彼ならドラフト1stラウンドピックを2つ取り返せるかもしれませんし、球団を背負って行く有望な若手をゲットできるかもしれません。そうすれば再建ではなく、「リブート」で済みます。

いずれにしても2022年のドラフトで良いルーキーを獲ることが鍵になりそうです。彼が成長するまでに数年はかかり、その時ハーデンは35歳くらい。急がないとですね。意外と時間が残されていないので、今から仕込みたいところです。

また、ハーデンもシーズン通してアイソし続けるのはしんどいと思うので、補強ではスクリーンがうまいビックをとる必要があるのかな、と思います。現状、ミニマムで見つけるか、Gリーグから見つけるしかないのですが、新GMのストーンはどうしていくのでしょうか。このままマイクロボールに賭けるのでしょうか。このオフシーズンからロケッツがどうチームを立て直していくのか追っていくのもおもしろいかもしれません。

 

サムネイル画像:Photo by Bob Levey/Getty Images