NBAトレード市場におけるヤニスの存在感

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NBAに大きく影響を及ぼしたのはキャップスペースがあったニックスやホークスではなく、ヤニス・アデトクンボでした。

ヤニスは2021年の夏にFAになるため、2年連続MVPの彼を狙うチームが彼と契約するために来シーズンのキャップスペースを開ける動きを取りました。そのチームとは、ヒート、ラプターズ、マブスです。彼らの動きが今シーズンのNBAの勢力図を変てしまうほどの波及効果を及ぼしました。

ヤニスが直接影響をもたらしたチームを見ていきましょう。

ヒート

オフシーズンを順を追って見ていきましょう。

ヒートは、バム・アデバヨのマックス・エクステンションをすぐにはせずに様子見です。アデバヨと今年契約延長をしてしまうと、その分ヤニスと契約するためのキャップスペースが減ってしまい、ヤニスとFA契約できなくなるリスクがあります。

そのため、ゴーラン・ドラギッチとは来年の夏に影響を及ぼさない2年契約37.4億円で2年目はチームオプション。実質1年で契約年数が少ないため、1年目は約18.7億円のバルーン・ペイメントです。

マイヤーズ・レナードとは2年で約20億円で契約。もちろん2年目の約9.5億円はチームオプション。これはハレルやイバカとほぼ同じ金額で、彼にそれだけのサラリーを払う理由は、もしヤニスがこの夏にバックスと契約延長をした場合のサイン&トレードに備えての数字だと思われます。

ウィングのジョー・クラウダーとデリック・ジョーンズとは契約ができませんでした。バードライツがあるクラウダーとジョーンズには、どのチームよりも長く高い契約を提示できたはずです。特に、クラウダーは、NBAファイナルズまで行って活躍した選手だけに、彼を失うのは戦力ダウンでしょう。しかし、それよりもヒートは来年のキャップを空けるために、2人に1年契約しか提示しませんでした。結局、クラウダーはサンズと3年で約30億円の契約、デリックはブレイザースと2年で約20億円のフルMLEを使っての契約を選びました。

ここまでは順調で、このままいけば来年のキャップは約39億円ほどになるはずでした。

しかし、ここでアデバヨのエージェント(ヤニスのエージェントでもある)が登場します。彼はマイアミに飛び、ヒートと交渉して、アデバヨがマックス契約延長を獲得する手助けをしました。5年で約163億円のマックス契約で、オールNBAに選出されれば最大で約195.6億円までいきます。同じくマックス契約延長を得たミッチェルやテイタムとは違い、バムにはプレーヤーオプションがありませんでした。

(Photo by Alex Saratsis)

なぜ、ヒートはプランを変えてバムとの契約延長に至ったのでしょうか?エージェントから、ヤニスはバックスと契約延長するから待つ意味はないとでも言われたのでしょうか?

マイアミ・ヘラルド紙によると、エージェントから、「もしヒートがヤニスに自分が何者なのか見せたければ、ヤニスを待たずにバムの契約を延長した方がいい」と言われたようです。ヒートは、ヤニスにどのように自分のスター選手を扱うのか見せるために、バムのエクステンションに踏み切ったようです。

 

マブス

マブスも2021年のキャップをセーブするために、デロン・ライトをピストンズにサラリーダンプしました。

セス・カリーをジョッシュ・リチャードソンとトレード。カリーの契約は約7.8億円ですが、来年約8.2億円の契約が残っています。それに対し、リチャードソンは今シーズンはやく16億円とセスよりも高いですが、来年は約11.7億円のプレーヤー・オプションなので、彼はFAになると予想されます。

今年補強したジェームズ・ジョンソンの契約は今年限り、WCSは1年契約です。

現在来年のキャップルームは約34億円です。

 

ラプターズ

ラプターズの今オフシーズンの最優先事項はフレッド・ヴァンヴリートとの再契約です。4年で約85億円の契約ですが、2年目の来シーズンのサラリーは一旦少なくして、ヤニスのFAのために備えています(約21.2億円→約19.5億円→約21.2億円→約22.9億円)。

そして、サージ・イバカには他チームよりも多くサラリーを払えるバードライツがありましたが、結局ラプターズは来年のキャップスペースを守るために、彼に1年しか契約を提示できなかったと言われています。同時に、ヒートのドラギッチのような今季限りのバルーン・ペイメントの噂もありましたが、タックスを躱すために大きな契約金を提示しなかったようです。そのためイバカはクリッパーズと2年で約19.7億円の契約に合意しました。2年目はプレーヤー・オプションつきです。

 

これと同じことがマーク・ガソルにも起きています。これでガソルは優勝候補筆頭のレイカーズと2年で5.2億円の契約に合意しました(オプションなし)。レイカーズは彼と契約するためのキャップを空けるため、マギーをキャブスにトレードしています。

 

センターが薄くなったラプターズは、アーロン・ベインとアレックス・レンと契約し、ブシェーと再契約をしています。ちょっと物足りない気もしますが、これでラプターズの来年のキャップスペースは約21億円になり、ヤニスとの契約に希望が持てる位置に落ち着きました。

最後に、ラプターズにはOG・アヌノビーとの契約延長も残っています。NBAトップクラスの3&Dのアヌノビーも高いサラリーになると予想されますが、ヤニスとの契約のためのキャップを空けるため、来年に持ち越すかもしれません。

 

レイカーズ

また、ヤニスが今オフシーズンに契約延長をしない場合に備えて、ADもレイカーズとの契約延長を控えているそうです。本来なら、キャップの35%を得られる10年選手でのタイミングでの再契約をするため、2+1のマックス契約になると言われていましたが、ヤニス次第では1+1にしてヤニス獲得合戦に参戦する考えのようです。

レブロンもプレーヤーオプションなので、2人でFAになれば約72億円のキャップが得られそうです。そうなると、レイカーズはFAでADとヤニスと契約して、レブロンとはバードライツで再契約できます。

このプランだと、レイカーズはこのオフシーズンにクズマとは契約延長はできません。クズマの運命はヤニスがバックスと再契約するかどうかにかかっているでしょう。

 

バックス

最後にバックスです。ヤニスと契約延長をしたいバックスは、ヤニスに自分たちは長期的に優勝を狙い続られる価値があるチームだとヤニスに見せる命題が課されています。そのため、ジュルー・ホリデーをトレードで獲得しました。

ホリデーのトレードのために、バックスはエリック・ブレッドソー、ジョージ・ヒル、2つの1ndラウンドと2つの1stラウンドスワップを出しています (by Pelicans announcement)。ホリデーのためにこれだけ1stラウンドをあきらめるという事は、もうバックスとヤニスの間に再契約合意が取れているのではないかと囁かれました。

そして、バックスが次に白羽の矢を立てたのが、キングスのRFAのボグダン・ボグダノヴィッチです。ヤニスは彼の事を気に入っていると言われていました。

契約合意のニュースでは、キングスとはボグダン・ボグダノヴィッチをサイン&トレードで受け取ると言われていました。バックスはイリャソヴァ、ディヴィチェンゾ、ウィルソンを送る予定でした。

そうなると、バックスのラインアップは下のようになり、確実に優勝候補の一角になります。

 

プレーメークとシュートがあるホリデーとボグダノヴィッチの2人の加入は大きいですね。

 

しかし、このニュースが大問題になります。そもそもRFAのボグダノヴィッチとのサイン&トレード合意は、キングスがボグダノヴィッチとRFAの契約合意が取れていないとできません。ですが、このニュースが流れたのはFAが解禁になる数日前でした。ルールを無視してタンパリングしていたのは明らかです。

特にボグダノヴィッチを狙っているホークス等のチームや、ヤニスを狙っているヒートやラプターズにとっては大問題で、NBAにクレームをいれたのは間違いないでしょう。NBAも各チームにタンパリングをしないように警告のメモを送っています。バックスはこれにより罰金やドラフトピックを失う可能性もあったそうです。そのため、ボグダノヴィッチのサイン&トレードの話はなかったことになります(この騒動はあとで特集しようと思っています)。

結果、ボグダノヴィッチはホークスの4年で約72億円のオファーシートにサインしました。キングスがマッチしなかったので、彼のホークスへの移籍が決定します。

 

ボグダノヴィッチを取れなかったバックスは、パット・コナトンと3年契約(アーリーバードなので2年目がプレーヤーオプションの2年契約はできない)をしました。

他にも、キングスとのトレードに入っていたイリャソヴァをウェイブして、ブリン・フォーブス、トーリイ・クレイグ、ボビー・ポーティスと契約。

ボグダノヴィッチを失ったのは痛いですね。彼はシュートもありボールハンドリングできるので、プレーオフで彼のありなしの影響は大きいかもしれません。PnRができるオーガスティンや、シュートがありスペースをつくれるフォーブスの加入、そして、ディフェンスができるクレイグを獲得しましたが、プレーオフで違いを生み出すほどの選手ではありません。ボグダノヴィッチがいたら優勝できたかも、と悔やまれるような事にならなければいいのですが…

はたしてヤニスはこのバックスの努力を評価して、5年で約228.2億円のスーパーマックスにサインするのでしょうか?

 

ヤニスの影響力

このように、アテネにいてトレード市場に出てきてもいないヤニスがNBA全体に大きな影響を与えています。キングメーカーですか?って感じです。その存在感はまさにMVP級!

The Athleticのジョン・ホリンジャーの言うように、本来なら、優勝候補であるヒート(昨年度ファイナルズ進出)やラプターズ(2年前に優勝)は、レイカーズやクリッパーズのように、戦力をあげる動きを見せるはずですが、コアな選手をあきらめて逆の動きをしています。彼らはヤニスを獲得する可能性にかけて戦力ダウンも辞さない考えです。

また来年は、レブロン(PO)、クリス・ポール(PO)、カワイ・レナード(PO)、ポール・ジョージ(PO)、ブレイク・グリフィン(PO)、ゴベアー、デローザン、オラディポらエリート選手たちがFAなので、ヤニス獲得に失敗すれば彼らを狙うこともできます。そのため、彼らは今シーズンはがまんすると同時になんとか競争力を担保して行く、というプランだったのでしょう。

でも、これだけは言えます。

ヤニスが今シーズンのガソルとイバカも加わったバトル・オブ・LAを実現させたのです。はやくこの試合を観てみたいですね!

 

*2021-22シーズンのキャップは予想の約112.4億円で計算

参考サイト:Hollinger’s NBA free agency awards: The best, worst and weirdest of a wild weekend
サムネイル画像:Photo by Stacy Revere/Getty Images