昨シーズンのプレーオフ2ndラウンドの再戦になります。昨年はNo.4シードのヒートがNo.1シードのバックスを4-1で下しました。お互いにすでに相手の手の内はほぼわかっています。今シーズンのプレーオフの戦いはどうなっていくのでしょうか。
まずは両チームの今シーズンの成績から。前半はコロナで結構ゴタゴタしていたので、オールスター後の数字を見ていきます。
オフェンス:
- バックスは7位:116.1
- ヒートは10位:113.5
ディフェンス
- バックスは9位:111.0
- ヒートは17位:112.1
しかし、ヒートはジミー・バトラーがいる時は106.1です!彼がなしの時間は113.0に下がってしまいます。
それぞれのチームの特徴:
バックスは相手の2FGは50.3%でリーグ1位。リストリクテッド・エリアも60.8%とリーグ1位。しかし、相手のスリーは39.5%でリーグ29位(コーナー3は最下位)で、ミドルレンジとトップからのスリーの守備はリーグ最下位です。このように、中を固めて確率の高いショットを重点的に守る代わりに外を捨てる守備は依然健在です。
それに対し、ヒートのオフェンスではヒートはスリーのアテンプトはリーグ1位。ペイントとミドルからの得点は多くありません。ディフェンスでは、相手アテンプトはペイントとミドルレンジでそれぞれリーグ2位と4位。リストリクテッド・エリアも6位。しかし、ヒートの相手2FGは55.5%でリーグ27位と低くなっているので、アテンプトしたショットが決められているのがわかります。
対照的なのはペースで、ヤニスのアタック等ボールをプッシュしていくバックスは103.94でリーグ2位。それに対し、ハーフコートからのモーション・オフェンスが得意なヒートは95.92でリーグ30位になります。
とここまで見ると、チームのスタイルは昨シーズンのプレーオフの対戦から変わっていません。ヒートのディフェンスにとって最も弱いミドルを不得意とするヤニスがいることや、スリーを多く撃つヒートのオフェンスは、外のショットは撃たせていくバックスのディフェンスとの相性は良さそうです。
にも関わらず、バックスは強気にヒートとのシリーズをやりに来ました。バックスがラスト3戦目の試合をわざと負ければ、相手はヒートとのタイブレーカーで負けるニックスとのシリーズになっていたはずでした。しかし、バックスはヤニスやミドルトンらを出場させ、自らヒートを選ぶような試合をしていました。これで、バックスは、NBAファイナルズへ行くのに、ヒート、ネッツ、シクサーズを破って行かなければいけません。優勝するなら、どんなチームでも打ち負かせて行かなければいいけないという強い意思が感じられます。
その想いは去年攻略されているヒートに通用するのでしょうか。
ディフェンシブ・スキーム
バックスのディフェンス
昨シーズンのプレーオフでは、バックスは得意のドロップカバレッジをヒートのドラギッチやDHO(ドリブル・ハンドオフ)で崩されました。得意というか、ディフェンスはそれしかできずにヒートのオフェンスに対応できなかったのが敗因のひとつとして見られています。
そもそもコーチのマイク・ブデンホルザーは、ホークス時代から毎年のように柔軟な対応ができないと言われており、昨年もこれでかなり酷評されています。その後、バックスはヤニスと再契約するために優勝候補チームをつくる約束をしなければいけませんでした。そのため、今シーズンは、タックスを気にせずにホリデーなどの良い選手を獲得するために金を使うことをはじめ、プレースタイルも変えて行きます。
ディフェンスは2年もの間、ドロップカバレッジ一辺倒だったのが、レギュラーシーズンではスウィッチを試しはじめました。ロペスがペリメーターまで出て相手PGを守ることもありました。スウィッチは素早いDHOアクションに対応できるため、ヒートには有効なはすです。ほぼスウィッチしかやってこなかったロケッツからスウィッチ・スペシャリストのPJ・タッカーも得て、プレーオフに備えてきました。
しかし、私が見る限り、スウィッチの精度をあげることができずにプレーオフには間に合わなかったという印象です。シーズン終盤でもコミュニケーション不足でミスが見られました。5も守れるタッカーがいるので、スモールになってオールスウィッチするのを楽しみにしていましたが、それもあまりやっていないと思います。相手がスモールになっているのにロペスが出続けていることもあり、バドの頑固さを感じます。せっかくホリデー、ミドルトン、ヤニス、タッカーと複数のポジションを守れる選手が揃っているのに積極的に試すことをしていたなかったのが残念でした。
また、バドはゾーンも試してくるかなと思いましたが、これもレギュラーシーズンでは導入していないように思います(すべての試合を見ていないので、もし何回か試しているようでしたら教えてください)
もしヒートのドラギッチやヒィーロの調子が戻れば、今までのようなディフェンスは通用しません。それに備えるためにも、このシリーズまでの1週間の休み中、どのようなヒート対策をしてくるのか興味深いです。
他のディフェンス面での改善と言えば、KDやレディックからリーグのベストディフェンダーと言われているPGのジュルー・ホリデーの加入です。ホリデーは、1~4までマッチアップでき、スクリーンのテイルもうまいので、ヒートの得意とするDHOアクションやジミー・バトラーの問題になるはずです。
この他にも、バックスはファウルをしないでジミーを止められるかどうかも大きな意味を持ちます。フリースローの後はセットディフェンスになるので、ペースが早くヤニスへのディフェンスが敷かれてしまいます。昨シーズンのプレーオフでは、負けた試合はジミーに平均10本のFTAを与えていました。ジミーはファウルをもらうのがうまいので、バックスはそれを抑えることができるのでしょうか。
ヒートのディフェンス
ヒートのディフェンスは全体的に多彩で、スウィッチもゾーンもやってきます。ゾーンはリーグ2位の頻度で展開してきます。前述もしましたが、ジミーがいる時のディフェンスは106でNBA最高レベルです。ヤニスをひとりで守れる希な選手のひとりのバム・アデバヨもいます。しかし、今回は昨シーズンのプレーオフでヤニスを守っていたジョー・クラウダーがもういません。代わりはトレヴォー・アリーザですが、ヤニスとやり合える強さはないように思えます。アリーザのスリーもクラウダーほど良くないので、このポジションは確実にレベルダウンしています。
また、ヒートのディフェンスでのマッチアップも問題を抱えています。もしバムをヤニスにマッチアップさせたら、アリーザはブルック・ロペスを守ることになります。そうなるとロペスはコーナーではなく、ポストアップやパワープレーをしてくるでしょう(ロペスをコーナーに置くと、逆にバムにヤニスを守られるといった方が正しい?)。ジミーはホリデーからは外せないと思うので、ミドルトンをロビンソンで守らなくてはいけなくなります。ここでもミスマッチが生まれてしまいます。とは言え、デットモンがCでスタートしてくることはないと思います。
できるだけ、アリーザでヤニスをマッチアップさせ、バムや他のチームメイトのヘルプに頼らざるを得ないのではないでしょうか。
また、タッカーがスモールボール5で入ってきた時、ヒートのオフェンスにはスウィッチができて有効ですが、逆にスリーしかないタッカーにアリーザをマッチアップされてしまい、バムがヤニスにまわってきます。このあたりのマッチアップの駆け引きもシリーズを通してどう発展していくかも興味深いポイントです。
オフェンス
バックスのオフェンスで変わった点は、やはりPGのジュルー・ホリデーの加入が大きいです。
ホリデーはドライブもでき、外からも決めれ、パスもさばけます。そのため、ブレッドソーと違い、オンボールのオフェンスでヒートのガード陣にプレッシャーをかけられます。ドラギッチ、ヒィーロでは守れないでしょう。
また、バックスは今シーズンから、ヤニスに対して壁をつくられてしまう問題にも対応しました。ダンカースポットに選手を置いて、リムへ向かうヤニスへの壁プレッシャーの裏をつきます。たまに、ダンカースポットに2人置くこともあります。ヒートが、このバックスが導入した新しいオフェンスにどう対応してくるのかも気になります。
バドがどこまでヤニスをプレーさせるのかも注目ポイントです。昨年のプレーオフで敗れたヒートとのシリーズでは、負けているのも関わらず、ヤニスを36分、35分、34分と出し渋り、批判を浴びていました。ヤニス本人ももっとプレーしたかったような発言もしています。ホリデーもバドの時間の厳しさには驚いたと言っていたので、これもバドのコーチング・スタイルなのでしょう。しかし、シーズンがかかった試合でどこまで柔軟になれるのか見ていきたいと思います。
ヒートのオフェンス
バックスとは戦術ベースでは相性が良さそうなヒートですが、去年のシリーズで活躍していたPGのゴーラン・ドラゴッチ(PER16.3→13.0でBPMもマイナス)とタイラー・ヒィーロの調子が良くありません。ヒィーロはシーズン終盤にかけて調子を取り戻しましたが、バブルという特殊な環境ではなく、普通に観客のいるアリーナでどこまで実力を出せるのか懸念されます。
特にドラギッチの不調は大きく影響してきます。彼はボールと選手を動かせて、自分でもフィニッシュでき、シュートもあります。彼が入ることにより、守られていてもオフェンスが死ぬようなことがなくなります。彼が本調子を取り戻さないと苦しくなるかもしれません。
また、昨シーズンのプレーオフでは、ストレッチ5のケリー・オリニクが地味に重要な役割をこなしていました。彼は前回のシリーズでは10分~18分プレーしていたのですが、その長い時間をアチウワかデットモンで彼の外からのシュートとIQを代用できるのでしょうか?ビェリッツァが覚醒するのでしょうか。それともローテーションを絞って他の戦術をしてくるのでしょうか?
このシリーズは、もしヒートのガード陣が前回のシリーズのような実力を発揮できるのであれば、ヒートは有利にシリーズを戦うことができるでしょう。もし、ヒートのモーション・オフェンスが機能しないのであれば、バックス有利となり、去年の雪辱を果たすことができると思います。
ESPNの18人のエキスパートたちの予想では、概ね6試合か7試合のシリーズになり、13人がバックスの勝利、5人がヒートの勝利を予想しています。いずれにせよ、修正に次ぐ修正が楽しめる長いシリーズになりそうです。
バックス対ヒートのシリーズの見どころ:
- バックスのディフェンスの進化。スモールボール・スウィッチは通用するのか?
- ジュルー・ホリデーのディフェンスとオフェンスの影響
- ヤニスのプレー時間
- ヒートのディフェンスでのマッチアップ
- ドラギッチとヒィーロの調子は戻るのか?
- ヤニスの壁対策 vs その対抗策
- ジミーのファウルゲーム
- アリーザはクラウダーの穴を埋められるか?
サムネイル画像:Photo by Getty Images