ネッツ対バックスの見どころ 2021

コラム

3人のMVP、6人のオールスター、5人のオールNBAチーム選出選手たちが揃い、イーストのファイナルズを賭けて戦うネッツ対バックスの2ndラウンドシリーズ。このシリーズは事実上の決勝戦という人たち(ジョン・ホリンジャーやティム・ボンテンプス)もいるくらいの好シリーズです。

ネッツのジェームズ・ハーデンも「これは天王山の戦いだ」と言っていて、彼からもこのシリーズがいかに重要か感じ取れます。これは残りプレーオフの行方も左右してしまうほどの優勝候補同士のぶつかり合いと言ってもいいでしょう。今回はそんなエキサイティングなシリーズの見どころを紹介していきます。

両チームの特徴は、守備のバックスとオフェンスのネッツと正反対です。ネッツのレギュラーシーズンはKD、ハーデン、カイリーのビック3がなかなか揃わなかったので無視して、プレーオフの数字を見てみます。なんとビック3が揃ったネッツのオフェンスは100ポゼッションでリーグトップの128.0を叩き出しています。

バックスのプレーオフのディフェンスはヒートの噛み合わないオフェンス相手ではありましたが、100ポゼッションで95.4とリーグ1位。バックスはネッツを守りきれる可能性のある数少ないチームのひとつです。このシリーズはディフェンス対オフェンスの激突と言ってもいいのではないでしょうか(ネッツの128.0とバックスの95.4はプレーオフ史上最高と言っている人もいますが、調べきれませんでした)。

また対照的なのはディフェンシブ・リバウンドで、バックスはプレーオフで1位、ネッツは最下位です。これは両チームのプレースタイルをよく表していて、バックスは中を固める守備のためで、ネッツはトラディショナルなCなしのスモールでプレーするためです。バックスはリバウンドが弱かったヒートにはオフェンシブ・リバウンドも取りに行っていたので、ミッドレンジやペリメーター以外のここでも戦いが繰り広げられそうです。

両チームともに現在のチームに未来のすべて賭けている点も似ています。バックスはジュルー・ホリデーを獲得するために、2027年までのドラフトアセットをトレード(2020年のペイサーズからの1巡目指名権、2024年の1巡目指名権スワップ、2025年の1巡目指名権プロテクションなし、2026年1巡目指名権スワップ、2027年1巡目指名権プロテクションなし)。ネッツもハーデンを獲得するために、同じように2027年までのドラフトアセット(2021年の1巡目指名権スワップ、2022年の1巡目指名権、2023年の1巡目指名権スワップ、2024年の1巡目指名権、2025年1巡目指名権スワップ、2026年の1巡目指名権、2027年1巡目指名権スワップ)をトレードしています。なので、この2ndラウンドで負けると、優勝するためにチームを改善する方法があまり残されていないので苦労しそうです。

バックスには過去3年でオールディフェンスチームに入った選手が2人(ヤニス、ホリデー)います。その1対1でもチームディフェンスもできるチームに、レギュラーシーズン8試合しか一緒にプレーしなかったKD、ハーデン、カイリーは勝つことができるのでしょうか?

レギュラーシーズンに主力が揃って対戦していないので、どんなシリーズになるのか予想するのがむずかしいですが、このシリーズを楽しむための要素をあげていきたいと思います。

ネッツはスターターでストレッチ5のジェフ・グリーンが足底筋膜の肉離れで欠場しています。そのため、試合開始からのマッチアップがどうなるのかも不明です。おそらくはブレイク・グリフィンがCでスタートするでしょうが、デアンドレ・ジョーダン、ニック・クラクストン、ブルース・ブラウンの可能性もあります。

まず、グリフィンだとパワーとスピードで勝るヤニスを守れないし、リムプロテクションもありません。そうなると、本当はKDは守備で休ませるためにバックスのCのブルック・ロペスにマッチアップさせたいところですが、KDもヤニスの守備をしなくてはならないでしょう。KDもヤニスのパワーには勝てません。キックアウトからのコーナーなどからのスリーを捨ててチームディフェンスでヤニスを守るしかないでしょう。まず初戦はスリーを決められたら仕方ない的なディフェンスをしてくると思われます。

デアンドレ・ジョーダンをスタートさせると、ネッツ得意のスウィッチができなくなります。仮にスウィッチディフェンスをすれば、ヤニスとの1-on-1になってしまいます。また、ジョーダンをドロップさせると、ヤニスのスクリーンアクションでホリデーやミドルトンに攻められてしまいます。そして、オフェンスではロペスのドロップカバレッジを崩せません。

ニック・クラクストンもまだパワーがないのでヤニスに太刀打ちできそうにありませんが、横の動きがあるのでネッツのスウィッチディフェンスにはフィットします。そしてグリフィンよりもリムプロテクションはあります。しかし、オフェンスではスリーが20%なのでスペースが死んでしまいますし、ロールでもロペスを破れないでしょう。

サイズのないブルース・ブラウンをスタートさせるとどうなるか?スウィッチさせられてヤニスやミドルトンに狙われるでしょう。またオフェンスでは彼にはシュートがないので、ハーデンへのスクリーンアクションで使うしかないのですが、得意のフローターでどこまでロペスを崩せるか…

こう見ると、オフェンスでもスペースを作れるグリフィンのスタートが濃厚です。おそらくKDがメインでヤニスを守るでしょうが、前シリーズのジェイソン・テイタムに続き、KDにとってはディフェンスの負担が増えるシリーズになりそうです。それでもヤニスを止められない場合は強さのあるハーデンをヤニスにマッチアップことも考えられます。

また、シュートが怖くないヤニスに対してはゾーンアップもしてくるかもしれません。セルティクスのジェイソン・テイタム相手には下の写真のようにゾーンアップしていました。ヤニス相手にも同じディフェンスを敷いてくるかもしれません。

バックスですが、スターティングSGのドンテ・ディヴィチェンゾがのためプレーオフは欠場になります。そのため、ヒートとのシリーズではパット・コノートンがスタートしていました。ヒートシリーズでスリーを決めまくっていたブリン・フォーブスはディフェンスが微妙なため、試合開始からハーデンやカイリーにマッチアップさせてくることはないでしょう。スタートはコノートンになると思います。

ここで、また難しいのは、バックスがベストディフェンダーとも呼ばれるホリデーをネッツの誰にマッチアップさせるかです。ホリデーはKD、ハーデン、カイリーの3人ともディフェンスできるのですが、誰を守らせるのか?ザック・ロウ、ホリンジャー、ネイト・ダンカンはホリデーにカイリーを守らせるのではないかと予想していますが、どう出るのでしょうか。

ハーデンの利き手の左リアから守るディフェンスはバックスが編み出したものだし、やっかいなハーデンのPnRでも、ホリデーのスクリーンをオーバーするスキルがあればハーデンのオフェンスを制限できそうです。スクリーンのないハーデンの1対1になっても持ちこたえるでしょう。レギュラーシーズンではホリデーは対ハーデンで20ポゼッション守り、FGを33.3%に抑えています。

また、レギュラーシーズンのようにホリデーをKDにつける場面もあるかもしれません。そうなるとヤニスをハーデンにマッチアップさせることもでき、ヤニスの長さでハーデンのシュートやレイアップを止められるかもしれません。ちょっとファウルが怖いですが… ひとりの選手が試合を通してひとりの相手を守るわけではないので、試合の流れの中でアツくなったKD、ハーデン、カイリーのいずれかにホリデーを流動的につけてくることでしょう。こればかりは試合になるまでわかりません。

ローテーションも相手のマッチアップを考慮した上で決めてくると思いますが、セカンドチームで試合が決まってしまうかもしれません。もうひとつのポゼッションも見逃せません(笑)。私は両チームのローテにそれほど詳しくないので、初戦からどのように対応を展開していくか注目していこうと思います。

マッチアップ以外の見どころは、お互いに相手守備をどう攻略するのかです。

ネッツはどうバックスのドロップカバレッジを攻略するのか?去年のヒートのようにスリーを決めまくるのか、またはスクリーンからのミッドレンジやフローターを多くしてくるのか?ネッツのミッドレンジはプレーオフでリーグ1位です。これが決まりまくり、バックスの対応が遅れれば、ディフェンスで多少やられても余裕をもった試合運びができるかもしれません。

また、ネッツはビック3でいかようにでも点を取れます。

シーズンで、ビック3のPnRは…

  • KD:1.02 PPP
  • ハーデン:0.97 PPP
  • カイリー:1.01 PPP

アイソ…

  • KD:1.20 PPP
  • ハーデン:1.13 PPP
  • カイリー:1.33 PPP

ポストアップ…

  • KD:1.14 PPP
  • ハーデン:1.00 PPP
  • カイリー:1.33 PPP

むしろネッツにはPnRをやって欲しいくらいですね。

ネッツはバックスがスモールになった時、セルティクスでトリスタン・トンプソンを無効化していたように、ヤニスのヘルプを無効化するようなアイソをしてくるかもしれません。ネッツというよりもハーデンがやると言った方が正確かもしれませんが…

(TTがハリスについているためペイントから引き剥がされています)

 

反対に、バックスはどうネッツのスウィッチディフェンスを攻略するのかがメインの課題になります。スクリーンをスリップしたり、リジェクトしたりするのか?ネッツのスウィッチをうまく使ってカイリーやハーデンを捕まえることはできるか?ヤニスがスクイーズされた壁にぶち当たった時にペリメターにいるロペスやタッカーやフォーブスはスリーを決められるか?シカゴアクションやダブルドラッグからのリード&リアクトのオフェンスでネッツを崩すことができるのか?守備で狙われるロペスがオフェンスでスモールのネッツを痛めつけて試合に残ることができるのか?修正が不得意なバックスのブデンホルザーは受け身でいくのか、それとも先手を打ってくるのか?などいろいろ見どころは多そうです。

上のビック3の数字を見てもネッツのオフェンスは恐ろしいですが、セルティクス戦を見ていても無敵とは感じられませんでした。ディフェンスではカイリー、ハリス、ハーデン、グリフィン、シャメットと攻略できそうな穴がいくつかあるからです。ヘルプも良いとは言えません。オフェンスの負担が減ったからなのか、ハーデンはロケッツ時代と違いディフェンスもがんばってますが、それでもロックダウン・ディフェンダーとまではいきません。ハーデンを隠しても、今度はカイリーが狙われます。特にホリデーはパワフルなので、ネッツのガードはバスケットまで持っていかれるでしょう。それにバックスのまとまった様々なアクションに対応できるような守備は持っていない気もします。バックスにも十分に勝てるチャンスはありそうです。

同時に、そんなネッツのディフェンスですが、そこで生まれる失点をNBA最高峰のディフェンスに対して史上最高と言われるオフェンスで取り返せちゃう可能性も十分あります。しかもあっという間にスリーを連続で決められ追いついてしまう展開など容易に想像できます。

そして、どこかのタイミングでジェフ・グリーンが復帰すると思います。そうなったらまたシリーズの流れが変わりそうです。

はたしてどうなるのでしょうか?

個人的には、ヒートでは披露するまでもなかったバックスのタッカー、ヤニス、ミドルトン、ホリデーのスモールラインアップでのスウィッチを見てみたいです。ネッツのスリーやドロップカバレッジへのミドルを制限する意味でもどこかのタイミングでスウィッチを織り交ぜてくるはずです。その精度がどこまで仕上がっているのかも見てみたいです。

また、ネッツのコーチがスティーヴ・ナッシュとマイク・ダントニだからなのか、ネッツのオフェンスがワイドピンダウンやドラッグスクリーンくらいしかないのも個人的には不満です(笑)。アイソのPPPが高いので必要ないからなのかもしれませんが、ファンとしてはサンズがやっていたようなディレーやピストルアクションももっと見てみたいところです。ハーデンはロケッツでもダントニの元で21アクションはやっていたので、もっとできると思うんですけでどね。短縮されたシーズンで練習時間もなかなか確保できない中、シンプルにしていくのが正解なのかもしれません。セルティクスのシリーズではオフェンスの意思疎通(またはセットにうまく入れなかった)ができていなかったのも気になりました。この休みの間に新しいオフェンスを導入するのでしょうか。

ということで、ネッツにはきちんとトレーニングキャンプをしてからの来シーズンに期待するとして、今シーズンはバックスに優勝して欲しいと思っています。バックスはレギュラーシーズンでシクサーズに3勝0敗とエンビードとシクサーズのディフェンスを見切った感があり、これで勝ち抜けばファイナルズ進出はほぼ間違いないと思われます。

(ちなみに、ザック・ロウ、ホリンジャー、ダンカンはネッツがゲーム7で勝ち抜き、ボンテンプスはバックスの勝利を予想しています)

いずれにせよ、このシリーズは両チームとも修正の連続になり、天王山の戦いに恥じない戦いを見せてくれると思っています。そして、それがシリーズのストーリーつくり、戦いをさらにアツいものにしてくれるでしょう。

そういったシリーズのストーリーを見逃さないためにも、ゲーム1は必見です。いきなりゲーム2を見てもなぜマッチアップがそうなっているのかのバックストーリーがわからないのでは100%楽しめなくなってしまいます。このシリーズはファイナルズだと思って最初から観てもいいのではないでしょうか。そうすれば、シリーズが進むごとにチームの理解が深まり、次のカンファレンス・ファイナルズやファイナルズへ続くストーリーが描け、プレーオフをさらに楽しむことができると思います。


サムネイル画像:Photo by Stacy Revere/Getty Images

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