ヤニスのNBAファイナルズ

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2021年7月21日、ミルウォーキー・バックスがフェニックス・サンズをNBAファイナルズで4-2と破り、50年ぶりの優勝を果たしました。そのバックスを優勝まで導いたヤニス・アデトクンボが、ファイナルズと優勝した時のことついてGQで語っていたのをまとめました。

左膝のケガ

ヤニスは、6/30に行われたイースタン・カンファレンス決勝のホークスとのシリーズのゲーム4で、左膝の過伸展のケガをしてしまい、残りのシリーズを欠場していました。過伸展はACLやメニスカス損傷していなくても回復までには10~14日かかると言われており、7/7からはじまるファイナルズの出場も危ぶまれていました。実際、シリーズの数試合は欠場するのではないかという見方が一般的でした。

しかし、ヤニスはファイナルズのゲーム1からフル出場。プレーオフの6試合全試合でプレーしています。

ケガをした時、足が逆に曲がってしまい、ヤニスは「今日まで、そのトラウマ的なストレスの影響を感じる。まだそれを感じるんだ。死ぬまで感じ続けるんだと思う」と言っているほど痛みはあったようです。

しかもNBAファイナルズのゲーム4の終盤、ヤニスはそのケガした脚でデアンドレ・エイトンに強烈なブロックをくらわしました。観ていた私たちだけではなく、ブロックしたヤニス本人も「後でそれを見て、それをどうやったんだ」というほど自分自身に驚いたそうです。

このシリーズで、バックスを襲っていたのはヤニスの左膝だけではありませんでした。

忍び寄るコロナウィルス

NBAファイナルズでは、バックスとサンズにコロナ感染者が12人以上出ていたそうです。

バックスからは6人で、ワクチン接種していたコーチやメディカルスタッフ、彼らの家族の一員や球団関係者らが感染していたそうです。その前にも、バックスのアシスタントコーチ、メディカルチームの2人、ロードにいるスカウトが1人がコロナ陽性になっていたそうです。ヤニスのお気に入りのアシスタントコーチの家族にも偽陽性が出ていたそうです。

このようにコロナがチーム内に入り込んでいる状況でしたが、NBAのコロナ検査が盾の役割をしてくれていたおかげで、なんとか選手たちへの感染は抑えられていました。しかし、ゲーム5でついに選手に感染者が出てしまいました。しかも、それはヤニスの兄のタナシスでした。

それがわかったのは、7/17のNBAファイナルズのゲーム5の試合開始4時間前だったそうです。タナシスの風邪の症状が悪化したため検査をしたところ、結果は偽陽性。タナシスはすぐに隔離されて、再検査を受けました。結果はコロナ陽性。

球団内では「FUCK」という状態になったそうです。

なぜならタナシスは病状が出ていたのにロッカールームにいたからです。正直誰が陽性になるのかもわからない状況だったそうです。もちろん、みんなはヤニスとタナシスの兄弟の仲の良さもわかっています。もしヤニスがコロナに感染していたらシリーズは終わりです。優勝はなかったでしょう。

幸運にもヤニスのコロナ検査の結果は陰性。

今から振り返れば運命だったのでしょうか、バックスは最悪の事態を回避できました。

ただ、コロナ問題はそれで終わったわけではありませんでした。コロナは感染してから潜伏期間があり、感染初期の頃はコロナ検査にひっかかりません。そのため、その3日後のゲーム6は乗り切れたとしても、5日後のゲーム7ではコロナ検査陽性の選手が出ていたかもしれません。球団内では、ゲーム7まで行っていたら選手たちが全員揃わないかもしれないと言っていた人もいました:「私たちは7試合目でフェニックスには戻れない」

(また余談ですが、優勝パレードの後コロナ感染した選手もいるそうです。誰だったかは明かされていません)

脱水症状

チームはコロナで揺れましたが、ヤニスはゲーム5に出場し、32得点を決めてチームを勝利に導き、バックスはサンズ相手に3−2でリード。

しかし、ヤニスは試合後にひどい脱水症状になってしまったそうです。シャワーを浴びている時に痙攣がはじまり、唇が紫色になって、指先は白くなり、タオルをかけただけの状態でトレーナーのテーブルの上に横になってゴミ箱に5回吐いてしまったそうです。点滴をするために静脈を探すのに45分かかったとも言っていました。

その後の記者会見では「ちょっとした脱水症状だった。私はソフトだ。でも大丈夫だ」と言っていました。そして、ホテルに帰ってから2回目の点滴を受けたそうです。

そんな状態になるまでプレーしていたヤニスは、試合の残り時間15秒で1点差でこのアリウープを決めていました(なぜフリースローがうまいホリデーがボールをキープしなかったんだという意見もありますが…ホリデーはヤニスに乗せられたと言っています)。

そして優勝へ

3-2で王手をかけたゲーム6。コロナ感染もあり、どうしてもこの試合で勝っておきたいバックスは本拠地でサンズを迎えます。(サンズもコロナ感染を気にして、選手やコーチやスタッフ以外はホテル宿泊NGしたため、日帰りでミルウィーキーまで試合に行っていた人たちもいたようです)。

その試合で、ヤニスはプレーオフのキャリアハイとなる50点を記録、バックスはサンズに105対98で勝利します。バックスにとって50年ぶりの優勝です。

優勝を決めた後、ヤニスは真っ先に観客席にいる家族に会いに行ったそうです。母と弟たち、婚約者、息子と抱擁を交わした後、勝利の歓声に包まれたアリーナの中で静かな場所を見つけに行きました。亡くなった父と話すためです。ヤニスはひとりで座りながら天国にいる父に語りかけていました。「長い道のりだった。あなたにここにいてこれを見て欲しかった。私を見てくれ」

チーム全体がコートに設置された壇上に集まって優勝を祝っている時、ヤニスはまだひとりでいたそうです。みんなからはMVPになるかもしれないから壇上にあがるように言われましたが、ヤニスは「選ばれたら教えてくれ、行くから」と返したそうです。写真を見ると本当にヤニスの姿はありません。

優勝を祝うバックス。ヤニスの姿はない(Photo by afp photo)

オールスターでMVPに選ばれた時も、ヤニスは後ろのスコアラーズテーブルに1人でいたのを覚えています。ヤニスは、オフシーズンにも他の選手とのピックアップにも参加しませんし、他の選手とスーパーチームを作るような感じには見えませんし、FAでもスモールマーケットのミルウォーキーとの契約延長を選びました。プレーする時はチームを引っ張り、祝う時はひとり裏にいる… 謙虚というのもあると思いますが、スポットライトを浴びて注目されてしまうのが好きではないのかもしれません。

ヤニス本人も「リーグの顔にはなりたくない」と言っています。

もともとヤニスはひとりでいる事が多いそうで、練習の後もチームメイトたちと遊びに行ったり食事に行ったりせずに、家に帰って家族と時間を過ごすそうです。

実際チームメイトたちはヤニスのことを良く知らないそうです。クリス・ミドルトンは、ヤニスのことを「5年でやっと50%を知った。8年後にやっと60%から90%は行ったかもしれない」と言っています。ヤニスは今チームのリーダーなので、チームメイトとケミストリーを築かなければいけないのを知っいるとも。

優勝した後、チームメイトたちは優勝を祝うためにラスベガスに行ったそうですが、その時もヤニスはミルウォーキーに残っていました。

優勝の翌日、Chick-fil-Aで50得点を記念して50本のチキンウィングを注文しているヤニス。

ヤニスは左膝の過伸展や脱水症状がありながらも攻守でチームを支え、コロナ感染をかわし、球団を優勝へと導きました。こうしてみると、ギリシャの2部リーグでプレーし、不法移民でドラフト直線までパスポートなしという状況でNBA入りした時と同じように、ヤニスは逆境に滅法強いですね。もし逆境を乗り越えるヤニスのメンタルの強さの秘訣や研究の記事が出るならば、ぜひ読みたいと思っています。

メンタルヘルス

メンタルの強さではないですが、ヤニスはGQの記事の中で、バスケの他にもメンタルヘルスやお金のことも語っています。

ヤニスは本当に良いすべてのアスリートたちは、内緒でセラピーにかかったりしていると確信しているそうです。大坂なおみのドキュシリーズを見た時も、彼女が成功についてくる問題について話しているのを見た時、自分もますますそうなっていると共感したそうです。

そして、大坂なおみが話す前から彼女の目を見てどんな苦しみを抱えているのかわかったそうです。

ヤニス:「彼女はハッピーではない。ゲームやそれにまつわることから離れたがっていた。それらはFucking大変なんだ。私もそれを18歳の時からやって来ている。みんなはそんなに若い時に受けるプレッシャーの量をわかっていない。何があってもベストを尽くしてパフォーマンスをあげることだけではなく、大きなブランドが肩にのしかかっている。自分の国である日本が彼女の肩にのしかかってくる。私の場合はギリシャだ。そしてケアしなければならない人たちが大勢いる。私は今までこれを言ったことがない…”失敗はしたくないんだ”」

ヤニスは18歳でNBAに来てから、まわりの人を助けられなくなることを恐れてきたそうです。それが長い間ヤニスの原動力でした。「18歳でミルウォーキーに来た時はひとりきりで怖かった。人生が怖かった…他の選手が怖かった。そんな状態で私はバスケットボールコートに立たされた。でもその時私が知っていたことは何かわかるか?私にはFucking選択肢がないという事だ。fucking止まれない。もし私が止まったら家族はどうなるんだ。彼らを助けられなくなる。助けられるポジションにはいられなくなる。だからやり続けるしかなかった」

それからヤニスはずっとバスケをし続けてきました。ヤニスは今の彼女と会うまで家とジムの往復しかしていなかったそうです。

ヤニス「私にはずっと使命があった。だから(NBA入りした7年後)私は誰かとfucking話さなければならない。なぜなら私は問題を抱えているからだ。でも(バスケは)止められないんだ。8年間すばらしい選手になるためにがんばってきて優勝した。そして今、そのために犠牲にしたことをどうにかしなければならない ー 安らぎ、バスケ以外の人生、家族等のことだ」

お金について

ヤニスの彼女の父曰く、ヤニスは朝鳴く小鳥のさえずりのようだそうだ。”チープ、チープ、チープ”(ケチという意味)

ギリシャに帰る時もプライベートジェットは使わないそうです。理由はそれにかかる料金が片道約1500万円もするから。往復で約3000万円になるので、そのお金を投資にまわせば、今市場のリターンが6%~10%なので、毎年300万稼げる計算になります。ヤニス:「毎年300万も取られてしまうような事をどう子供に説明すればいいんだ?」ちなみに、ヤニスは去年バックスと5年約228億円のスーパーマックス契約延長をしています。

ヤニスはクルマにもお金を使っていません。所有しているのは3台で、2013年に買ったGMCのトラック、2018年に買ったメルセデス、もらったゲレンデがあるだけだそうです。ヤニス:「価値がなくなることに金は使わない。服やスタイリストには金を使わない。トンネルで良く見せるために金を使うのは、ゲームへの集中を奪ってしまう。48分間集中できることに金を使う」ヤニスがいつもナイキのトレーナーを着ているのはそれが理由です。

今大きな出費はバスケットボールコートと母の家だそうです。今、元チームメイトだったマーザ・テレトヴィッチから買った家に住んでいるのですが、今いっしょに住んでいる母の家を建てているところだそうです。また地下にバスケットボールコートをつくる予定だそうです。

バックスはヤニスがあまりにも練習場に来るので、休ませるために練習場を「ロックダウン」してヤニスを入れなくする時間帯をつくっているそうです。でも、家にコートがあれば、もうロックダウンを心配することなくバスケができるようになります。これからフリースローも上手くなりそうですね。

また、腕時計は好きだそうです。理由は価値があがるから。

ヤニスがつけていた腕時計です⬇️

(Rolex Sky-Dweller)
(Audemars Piguet Royal Oak Offshore)

10年前までギリシャの路上でニセモノのブランドバックやサングラスなどを売っていたとは考えられないほど成功していますね。

ルーキー時代に魔が差してプレーステーションを399ドルで買いましたが、高い買い物なのと、ギリシャに残してきた家族にすごく後ろめく感じたので、アシスタントコーチのニック・ヴァン・エクセルに買った時と同じ値段でプレステを売ったというエピソードや、パーディアムの190ドルで暮らそうとしていたという話もありました。チームメイトもヤニスにパーディアムをあげたり、家具をあげたりしていたようです。いいレストランに入っても、お金は払えるにも関わらず、値段が高く感じるのでサラダしか頼めなかった時もあったようです。

そんな彼が今や、スーパーマックス(5年で約228億円)プレーヤーで、MVP2年連続、オールスターMVP、DPOY、MIPを勝ち取り、その輝かしいキャリアにNBA優勝とファイナルズMVPが加わりました。殿堂入りも確実でしょう。

そんなヤニスも現時点でPERがヨキッチに次いで2位で30超え(12/6時点)ですが、カリーやレブロンのようなスポットライトは当たっていません。チームも現時点でケガに悩まされています。ロペスは腰の手術からの復帰の目処がたっていませんし、ジュルーやミドルトンもシーズンはじめにケガで欠いていました。それにも関わらずネッツ、ブルズに次いでイーストで3位(12/6時点)です。ミルウォーキーの小さな街のチームからなのか、レギュラーシーズンは強いチームと思われているからなのか、ケガ人がいても勝っているバックスは注目されていません。でもこの方がヤニスにとってはやりやすい環境なのかもしれませんね。スリー%とFT% は去年よりも落ちていますが、まだ挽回できます。ヤニスの今シーズンの更なる活躍を祈ります。

(Photo by  Arnaud Pyvka/GQ)

参考サイト:Why Giannis Antetokounmpo Chose the Path of Most Resistance/Revealed: The Secret Covid Outbreak That Shot Fear Through the NBA Finals

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