今年のDPOY(ディフェンシブ・プレーヤー・オブ・ザ・イヤー)はMVPレースとは違って最有力候補がいないようです。今年はどのようなレースになっているのか検証してみたいと思います。
ペリメーター・ディフェンスか、リムプロテクションか?
ディフェンスを評価するのはむずかしいため、誰がDPOYに相応しいか考えるのも。
まず、オフェンスと違い、ディフェンスのニュアンスの数値化ができません。ヘルプローテションやエルボー・ディフェンスなどは実際にゲームを観ていないと評価はむずかしいと思いますし、それらの数値化がどこまで正確に反映されているのかわかりません。MVPとは違ってDPOYレースを語る時にオンオフ以外のアドバンススタッツがまったくと言っていいほど出てこないのはこのあたりに理由がありそうです。
また、ディフェンスのポイント・オブ・アタック・ディフェンスやスクリーン・ナビゲーションなどは注目されず、わかりやすいリム・プロテクションやDRB%やブロックなどの数字だけが取り上げられたりして、なかなか総合的な判断しずらいのではないでしょうか。
それに加え、昨今はオフェンスが変わって来たために、ディフェンスも今までのようなバスケットまわりの守備ではなく、ペリメーターのディフェンスの重要度も増してきています。そのため、ディフェンスのどこに重きを置いてDPOYを評価するのか意見が割れるのも、DPOY選考をむずかしくしている要因のひとつだと思われます。
今のオフェンスでは、リム・プロテクターをバスケットから引き離すためにスリーやスペースに重点をおいて、横のクイックネスも用いて攻撃するようになりました。そうなるとむしろドロップ・カバレッジ・ビックは相手にスペースを与えてしまい、ディフェンスの穴になってしまいます。そのため、PnRなどに対抗すべくディフェンスも進化し、スウィッチング・スキームを使う場面が増えてきています。実際に今シーズンのスウィッチ率は24%になり、10年近く前の2013-14から比べて3倍アップしています。
このように「1~5(または1~4)」守れるビックは戦術的守備の選択肢を増やしてくれるため、価値もあがってきています。例えば、ビックにも関わらず、スウィッチした後相手ガードの横の動きにもついて行けるセルツのロバート・ウィリアムズ、ヒートのバム・アデバヨやグリズリーズのジェレン・ジャクソン Jr.(以下JJJ)らの選手は、ディフェンス・スキームが制限されてしまうゴベアーよりも貴重な存在になりつつあります。
特にプレーオフではドロップ・カバレッジだけでは勝てなくなってきています。最後にドロップ・カバレッジで優勝したチームは2014年のスパーズまで遡るのではないでしょうか。スパーズはティム・ダンカンのドロップ・カバレッジで試合をクロージングしていたと思います。2019年のラプターズのクロージング・ラインアップはイバカがセンターをしてましたし、2016年のキャブスもトリスタン・トンプソンとケヴィン・ラヴがいましたが、ウォリアーズに対してドロップカバレッジはしていなかったと思います(記憶曖昧…)。伝統的センターで優勝したのは2011年のマーヴェリックスまで遡るかもしれません。
実際に今年のDPOY有力候補には、スウィッチできるウィリアムズ、アデバヨ、JJJの名前があがっています。それぞれのチームのディフェンスも1位、4位、6位とゴベアーのジャズよりも上位に並んでいます。
中でも、今年に入ってからのディフェンスが104.9と圧倒的(2位のグリズリーズは108.4)な数字を誇るセルティクスの守備はオール・スウィッチなので、これからもスウィッチできるビックの評価はあがってきそうです。
逆にゴベアーは去年LA-DPARMが2位でしたが、今年は10位にも入っていません。そのためなのか、ジャズのディフェンスのエフィシェンシーもリーグ12位になっています(彼がケガでいなかった試合もありますが)。ジャズがドロップ・カバレッジでプレーオフ・シリーズを勝てないのも、心象的にゴベアーのレギュラー・シーズンのディフェンスの評価につながっていそうです。
ガード vs ビック
ペリメーターのディフェンスが重要になってくれば、ビックの守備だけではなく、ガードやウィングの守備も重要になってきます。
最近ポイント・オブ・アタック・ディフェンスの名前をよく聞くようになったのもその影響ではないでしょうか。ポイント・オブ・アタック・ディフェンスはペリメーターの重要なディフェンスで、相手のプレーコール、自分たちにカバレッジ、パスのレーン、アングル等理解しておかなければいけないことも多く、オフェンスの好きにはさせずに、少しでもクロックと相手の選択肢を削っていきます。スクリーン・ナビゲーションやワン・オン・ワン守備のスキルも要求されます。
このようなペリメーターのディフェンスではセルツのマーカス・スマート、サンズのミケル・ブリッジスらの評価が高く、特にスマートは、ガードにも関わらずビックにスウィッチできるのでDPOY有力候補になっています。他にはシクサーズのマティス・サイブルが候補として名前があがっています。
このようにDPOYを決めるにあたって、ビックだけではなく、ペリメーターのディフェンスを担当するガード/ウィングのディフェンスも検証しなければいけません。
このガード/ウィング vs ビックに関して、DPOY候補のスマートはESPNに次のように話しています。
また、スマートは「ルーディーに対して何も悪いことを言う気はないが、ルーディーは5つのすべてのスポットを守れない。私は5つのすべてのスポットを守れるし、それをしてきている… エンビードがルカやステフをチェックしているわけではない。ペイントをパトロールすることと同じくらい重要」と言っています。
ウィングのミケル・ブリッジス:
反対にビックのエンビードの意見はというと、JJ・レディックのポッドキャストでDPOYはセンターが受賞するべきだと言っています。
ゴベアーは…
どちらも正しいことを言っていると思います。こうなると、どちらを選んで良いのか判断がむずかしいですね。セルティクスのリーグNo.1ディフェンスでより大事なのは、アンカーでスウィッチもできるロバート・ウィリアムスなのか、ポイント・オブ・アタック・ディフェンスでスウィッチできるマーカス・スマなのか?これはパラドクス的に悩ましい問題です。誰に投票するかで、その人のディフェンスのフィロソフィーがわかりそうです。
現在DPOY候補として名前を聞いているのは:
ガード:マーカス・スマート、ジュルー・ホリデー
ウィング:ミケル・ブリッジス、マティス・サイブル
ビック:バム・アデバヨ、JJJ、ロバート・ウィリアムス、ヤニス、ルーディー・ゴベアー
存在するだけでディフェンスのフィールドを変えることができるドレイモンド・グリーンや、ペリメーターのディフェンスに定評があるアレックス・カルーソは出場試合数がほぼ半数のためDPOY候補には入らずに、オール・ディフェンシブ・チームにまわることになりそうです。
歴史を振り返ると、DPOYではセンターやPFの独壇場でした。実際に、1990年からガードでDPOYを獲得したのは1995年のゲーリー・ペイトンのみで、ウィングでは2003-04シーズンのロン・アーテスト、2014-15シーズンと2015-2016シーズンのカワイ・レナードだけになり、それ以外は全員ビックになります。今年は27年ぶりにガードがDPOY受賞することができるのでしょうか、それともまたビックになるのでしょうか?ペリメーター・ディフェンスが評価されるのでしょうか?それともリム・プロテクションがまだ評価されるのか…?
今年のDPOYレースは今後のディフェンスの流れを占う意味でも興味深いものになっていると思います。
最後にディフェンスのアドバンス・スタッツなどの数字を紹介します。
すべて4/4時点のもので、最低50試合出場/1試合平均20分以上で線引きしています。
リム・プロテクション
- ジャレット・アレン:48.6%
- JJJ:49.6%
- ジェイデン・マクダニエル:51.3%
- ゴベアー:51.8%
- ロバート・ウィリアムス:52.1%
- ヤニス:52.4%
- エヴァン・モブリー:52.7%
- アイゼィア・スチュワート:52.8%
- ウェンデル・カーター:53.0%
- プレシャス・アチウワ:53.3%
dEPM
- マティス・サイブル:4.0
- ジャレット・アレン:3.1
- デリック・ホワイト:3.1
- バム・アデバヨ:3.1
- ルーディー・ゴベアー:2.8
- マーカス・スマート:2.7
- PJ・タッカー:2.6
- ジャレッド・ヴァンダービルト:2.5
- ロバート・コヴィントン:2.5
- プレシャス・アチウワ:2.4
LA-DPARM
- アル・ホーフォード:2.0
- ロバート・コヴィントン:1.25
- ジェイソン・テイタム:1.22
- アイゼィア・スチュワート:1.22
- ハーブ・ジョーンズ:1.17
- エヴァン・モブリー:1.14
- ウェンデル・カーター:1.09
- マイク・コンリー:1.05
- ジョエル・エンビード:1.0
- ジャレット・アレン:0.98
D-LEBRON
- ルーディー・ゴベアー:3.58
- ホーフォード:3.56
- ロバート・コヴィントン:2.87
- JJJ :2.48
- エヴァン・モブリー:2.42
- ロバート・ウィリアムズ:2.29
- ジャレット・アレン:2.22
- ハーブ・ジョーンズ:2.18
- ヤニス:2.16
- モ・バンバ:2.12
参考サイト:Marcus Smart, Mikal Bridges, Rudy Gobert and what’s fueling the NBA Defensive Player of the Year debate
サムネイル画像:Photo by David Butler II/USA TODAY