カイリーがプレーヤー・オプションをオプトイン!

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サイン&トレードを模索していたカイリーが、$36.5Mのプレーヤー・オプションをオプトインしてネッツに残るというレポートが出てきました。その数時間前までは、カイリーがネッツからサイン&トレードを模索する許可を得たというレポートもあったので、この急展開には驚きがありました。

では、カイリーはなぜサイン&トレードやオプトイン&トレードなどの選択肢の中からオプトインを選んだのでしょうか。サイン&トレード、オプトイン&トレード、オプトアウトからのフリーエージェンシー、オプトインの選択肢を見ながら、どれがベストの選択肢だったのか見ていきたいと思います。

カイリーのシチュエーション

カイリーの選択肢を見る前に、まずはカイリーの契約を巡る状況を振り返えり、カイリーの置かれた状況を見てみましょう。

カイリーの来季の契約はプレーヤー・オプションで、オプトアウトすればフリーエージェントになって、ネッツ以外とのチームと契約できるようになります。

まず前提として、カイリーのサラリーのベストオプションは以下のようなものになります。

  • オプトインしてからの4年の契約延長:トータル5年で$240M
  • オプトアウトしてネッツと5年のマックス再契約:$248M
  • オプトアウトして他チームと4年のマックス:$183.61M(初年度$42.27M)

*キャプスペースは$122Mで計算

ただ、現状のNBAでカイリーの大きなサラリーを支払えるようなキャップスペースのあるチームはないことと、ネッツもカイリーが去ってもキャップを超えているので戦力補強ができないというルーズ・ルーズな状況にあります。

今のFAでカイリーのマックスを払うためにこれからトレードでキャップを空けられる可能性があるチームは、ピストンズ(現在$36.1M空けられる)、マジック(現在$27.2M)、スパーズ(現在$29.5M空き)、ペイサーズ(現在$26.4M空き)で、再建チームが多く、夏に大型トレードしなければ優勝候補には入らないでしょう。ワクチン接種拒否で$17Mも失ったカイリーが金狙いで優勝を狙えないようなチームに行くとは考えられません。

また、カイリーは契約延長が可能で、現在ネッツともめているのがこの契約延長だったと思われます。The Athelticのシャムズが、6/20にカイリーとネッツの契約延長交渉が行き詰まったとレポートしています

これに対してカイリーは、ネッツとの契約延長の内容に合意できなければトレードされたいチームのリストをつくり、ネッツに出ていくぞというプレッシャーをかけはじめました。カイリーは昨シーズンのイグジット・インタビューで、来シーズンは「どこへも行くつもりはない。ここにケヴと一緒にいることは、この球団をジョー(オーナー)とショーン(GM)とともにマネージメントすることができる。私たちはここの土台だ」と話していたので、ネッツとの契約延長交渉がほんとうに行き詰まっていることが伺えます。

ESPNのシニアNBAインサイダーのWoj情報だと、ネッツは2年$84Mをオファーしていたようです。おそらくこの数字は、カイリーがオプトアウトして2年のマックス再契約を指していると思われます(来シーズンの10年選手のマックスは$42.7Mから)。なぜ2年かと言うと、ワクチン不接種や突然のメンタル的欠場などで3シーズンで103試合しか出場していないカイリーに長期的にコミットするような信用がないことと、キャップ的にKDの契約延長と合わせて様子を見ようとしているからではないでしょうか、

しかし、カイリーはネッツと5年のマックスだと$245.6Mが得ることが可能す。これとオファーされた$84Mとの差は大き過ぎです。カイリーも今や30代でこれがキャリア最後の大きな契約になるかもしれないので、できるだけ多くのサラリーを得ておきたいところでしょう。そこで、カイリー側は少しでもネッツとの交渉で優位に立つため、トレード希望先情報をメディアに流して退団を匂わせているものと思われます。

また、カイリーが出て行けば、ドミノ的にKDもトレード要求をするかもしれません。ふたりはベストフレンドで一緒にネッツに来ています。ESPNのザック・ロウも、これからリーグ中でKDのトレードでオファーする内容を議論するミーティングがあるのはハッキリしていると言っていました。その状況になると困るのはネッツです。リーグでトップ5の選手を持つことは非常に難しいことで、ビジネス的にもバスケ的にもそのような選手を失うようなことは避けたいはずです。ここでカイリーはネッツに対する交渉のレバレッジを生み出すことができます。

当のKDは、自身のポッドキャストでカイリーのFAには口を出さないと言っています。選手にとってFAは人生を左右する大事なイベントなので、自分がしゃしゃり出て行くことではないと言っています。これはKDはカイリーが出て行くことを説得して止めないと言っているようなものです。すなわち、KDは暗にネッツが友人のカイリーに金を払うかどうか静観して様子をみるから、きちんとした対応するように無言のプレッシャーをかけているとも言えます。KDも本心はカイリーと一緒にプレーしたいでしょうし、カイリーをサイレントサポートするのは当然だと思います。

また、KDはネッツのフロントとしばらく話をしていないようです。The Ringerのローガン・マードックによると、KDはカイリーへの対応やサンダー時代から仲が良かったアシスタントコーチのアダム・ハーリントンの解雇もあり、ネッツのフロントに懐疑的になっているようです。このKDの不信感情報も、カイリーの交渉で見えない大きなレバレッジになっているのではないでしょうか。

しかし、ネッツもこれに対抗してきます。ESPNのブライアン・ウィンドーストによると、オーナーのジョー・サイは去年のような状況になるようなことは避けたい&ネッツはカイリーとKDが去る準備をしているとの事。これはネッツがメディアに流した情報で、カイリーの交渉には応じない姿勢を強く打ち出したものだと思われます。強気ですね。オーナーのジョー・サイは去年のようになることはしたくないと言っていて、ネッツがしていること全てはサイが許可をしているようです。

このようにカイリーとネッツの交渉はチキンレースの様相を呈していましたが、実際にカイリーはネッツから希望チームにトレードされることは可能だったのでしょうか?カイリーにはどのような選択肢があったのでしょうか?どのようにしてカイリーがオプトインの判断に至ったのか見て行きたいと思います。

サイン&トレード

まずは、契約延長をしてからカイリーの希望先にトレードするサイン&トレードから。カイリーのオプトアウト後にネッツがカイリーにオファーしたくない3年以上の契約をしてから、カイリーの希望先のチームにトレードします。

カイリーがトレード希望先に選んだチームは、レイカーズ、クリッパーズ、マーヴェリックス、ヒート、シクサーズ、ニックスだそうです。

しかし、サイン&トレードではトレード先のチームにハードキャップがかかってしまい、今すでにタックスチームにとってキャップ的に厳しくなる問題があります。ハードキャップは$155.6Mで、タックスは$149M。レイカーズ、クリッパーズ、マーヴェリックスはすでにタックスチームで、シクサーズもハーデンがオプトインすればタックスに、ヒートもタッカーと再契約すればタックスに入るかもしれません。

噂になっているレイカーズでカイリーのサイン&トレードを計算してみましょう。レイカーズは例えばラッセル・ウェストブルック(以下ラス)をトレードして、カイリーを昨年のサラリーから20%アップの$42Mで引き受けるとします。しかし、BYC規定により、ネッツが出すサラリーはカイリーの昨シーズンのサラリーの$35Mになります。ネッツが$35Mで受け取れるサラリーは$43.75Mまでで、ラスの$47Mは大きすぎて受け取れません。

このバランスを取るために、ネッツは少なくてもカム・トーマスの$2.1Mとデイロン・ジャープの$2.1Mをつけて$39.2Mのパッケージにする必要があります。レイカーズから見たインカミング・サラリーは、カイリーの現在のサラリーの$42M+追加の$4.2Mで$46.2Mになり、これではエプロンを$1.5Mほど超えてしまうために成立しません(今契約中の選手たちのレブロン、AD、THT、ナン、リーヴス、スタンリー・ジョンソン、ガブリエル、カイリー、トーマス、シャープ、残り4人をミニマムで契約する計算です)。

サラリーマッチを成立させるためには、ナンやTHTやスタンリー・ジョンソンをトレードして彼らより低いサラリーを受け取って全体的にサラリーをさげておくか、ナンやTHTをトレードしてサラリーをさげつつ、トーマスとシャープをTEやキャップスペースのある3つ目のチームに送って3チーム・トレードにするしかありません。しかし、戦力をキープしながらサラリーを下げるのは実質不可能に近いでしょう。

いずれにせよ、これが成立したところで、ミニマム選手がチームの半数を占めるため、総合的なチーム力では劣るのではないでしょうか。 

このように、優勝候補チームが、カイリー獲得のためにキャップに制限をかける上にチーム力が劣るようなサイン&トレードをするとは考えにくいです。可能性があるとすればニックスがやりやすいですが、ネッツはランドル+バーレットか、ランドル+トッピン+クィックリー+グライムとドラフトアセットを要求するでしょう。はたしてカイリー獲得のために、ニックスがそれだけ出すでしょうか?何も反応がなかったところを見ると、ニックスもカイリーのサイン&トレードに興味はなかったようです。

カイリーがあげたチームの中で、サイン&トレードに実際に興味があるのはレイカーズだけだったというWojのレポートもあります。

また、上記で見たように、カイリーが出ていけばKDもトレード要求するかもしれません。カイリーを得るためにハードキャップの制限を受けつつトップパッケージを出すよりも、KD獲得のためにパッケージをとって置く方が良い戦術だと思います。

このように、サイン&トレードは結構ハードルが高いです。カイリーが選択肢を多く残してレバレッジをかけるなら、ハードキャップの制約がない「オプトイン&トレード」の方がベターです。

オプトイン&トレード

オプトイン&トレードは、カイリーが$36.5Mの契約をオプトインしてから他チームにトレードされるものです。これならば優勝候補チームもハードキャップに対応することなくトレードできます。サイン&トレードで見たレイカーズのケースで考えると、トレードの内容は同じですが、ハードキャップの縛りがないので、ミニMLEの6.3Mが使えるようになり、ミニマムよりも良い選手が得やすくなります。プレーオフでは8人ローテとかに絞られることもあり、こちらの方がサイン&トレードよりも優勝の確率もあがるでしょう。

ハードキャップやBYCの問題は解決しますが、今度はトレード先とネッツにとって他の問題が発生します。

トレード先にとっては、カイリーが来シーズン以降にフリーエージェントになることです。カイリーの1年レンタルにトップパッケージを出すことはできないので、チームに残ってくれる確約が取れるのかが重要なポイントになります。ネッツもロールプレーヤーだけのトレードに合意はしないでしょう。

また、カイリーがどこまでバスケにコミットしてくれるかは実際にシーズンに入って見てみないとわかりません。それが不明な限り、カイリーが望む金額での契約延長オファーはできないと思われます。実際にカイリーの活躍を評価したいが、そのためにトップパッケージを出すか?しかし、カイリーを評価するためにはトップパッケージを出さなければいけない… ニワトリタマゴ的な悩ましい問題になります。

また、ネッツにとってカイリーの希望先チームにはドラフトアセットがないのが問題です。カイリー級の選手を出すからには、オールスター級の選手か、若手有望選手+サラリーフィラー+1順目指名権が最低でも3つは必要だと思われます。得られる選手次第では1つだけでもいいかもしれませんが… レイカーズは2つ、クリッパーズは1つ、マブスは2つ、ヒートは1つ、シクサーズは1つしか残っていません。ニックスは8つありますが… 若いオールスターになれるような選手も見当たりません(マキシィ以外。6Man受賞のヒィーロも入るかもしれません)。

このようにオプトイン&トレードでは、通常のトレードのようにお互いのチームがトレードパッケージにOKしない限り合意まで至りません。ここでもカイリーよりも球団の方が優位に立っているので、カイリー的にはレバレッジをかけることができずに終わりそうです。

他の問題はトレードボーナスがあることです。カイリーのトレードボーナスは$5.4Mです。ネッツにとって決して安い数字ではありません。もしネッツがカイリーの希望先にトレードしてくれるなら、このトレードボーナスの権利を破棄してくれるかもしれません。

オプトアウト

これは単にカイリーが契約をオプトアウトして、他チームと契約することです。上記で見たようにカイリーとマックスで契約できるチームはありません。スパーズやマジックと$25Mのレンジでの契約に前向きでしょうか?また、再建したチームがカイリーのようなベテラン選手と契約を望んでいるでしょうか。カイリーの望みが金ならこれでは足りない気もしますし、優勝が望みならこれはないでしょう。

優勝を狙うなら、カイリー希望の優勝候補チームとミニMLEの$6.3Mで契約できます。カイリーは$30Mとバードライトを捨てることになりますが、もうすでに自分の信念のために$17Mとナイキの契約を失っていています。カイリーは他の選手とは違い、自分の信じることを追求するためなら金を失ってもいいことを証明しています。カイリーならこのようなクレイジーな選択肢もあり得るかもしれません。これが本当のカイリーのレバレッジだったのではないでしょうか。

しかし、問題はその後です。2023年に優勝候補チームにはまだカイリーのマックスを払うだけのキャップスペースはありません。そうなると、オプトアウトは取り返しがつかない悪手になり得ます。残るはオプトインです。

オプトイン

カイリーが来シーズンの$36.5Mの契約をオプトインしてネッツに残るケースを見ていきましょう。

カイリーがネッツにきちんと試合に出て活躍してくれれば、お互い納得の行く形でマックス再契約ができるでしょう。それでもまだお互いに信頼が築けないようであれば、両サイドともに来季終わった後(トレード・デットラインで)また再契約&トレードを模索してもいい訳です。ひょっとしたら、お互いにウィン・ウィンのトレードが出てくるかもしれません。

こうして見てみると、現状カイリーとネッツにとってもっともハッピーで現実的な選択肢はカイリーのオプトインなのではないでしょうか。

このレバレッジの掛け合い交渉から見えてきたこと

このカイリーとネッツの一連の交渉でわかったのは、ネッツのオーナーのジョー・サイがKDとカイリーを失っても構わないと強気に出たことです。これは究極のレバレッジで、これを言われてしまうと、もう選手に出来ることはただチームを去ることだけです。それだけオーナーからはカイリーにもう好き勝手させないぞという意気込みが見てとれます。今後カイリーが勝手に試合を休んだりするような事があれば、カイリーが望まない他チームへのトレードもあり得えるでしょう。今まではプレーヤーファーストでKDやカイリーの意見が通っていたのが、パワーバランスが変わり、これからはギブ&テイクの公平なパートナーシップに移るのかもしれません。

もうひとつわかったことは、現時点でカイリーの価値はマックスまでは高くないと言うことです。優勝候補だけではなく、数年前ならカイリーのトレードに飛びついていたであろうニックスすら動かなかったのは、カイリー本人にとっても多少なりともショックだったのではないでしょうか。来シーズンはカイリーの価値を高めることが、本人にとってもチームにとっても重要なポイントになります。

転じて良かったのは、カイリーが最後の大型契約に向けてバスケに集中してくれるであろうことと、カイリー、KD、ベン・シモンズがどう機能するか見られることです。来シーズン、ネッツはどのようなバスケをするのでしょうか。これはちょっと楽しみにしています。


サムネイル画像:Photo by J. Conrad Williams Jr./Newsday